箱根旧街道ハイキング 石畳と宿場の記憶をたどる歴史の道
江戸の旅人が難所・箱根峠を越えた「東海道箱根越え」。その旧道が今も残る箱根旧街道ハイキングコースは、湯本から芦ノ湖畔まで約16km続く歴史の道です。
石畳の坂道や杉並木、寄木細工の里など、文化と自然が溶け合う風景が連なり、舗装路と山道が交差する道中では、江戸の面影を感じながら歩くことができます。
アクセスの良さも魅力で、東京から電車で約90分。日帰りで歩ける人気の歴史トレイルとして、観光とハイキングを兼ねたコースに多くの登山者・旅行者が訪れます。
目次
箱根旧街道とは 江戸の旅人が歩いた東海道の難所

江戸幕府が整備した東海道のうち、もっとも険しいとされた「箱根越え」。湯本から畑宿、甘酒茶屋を経て箱根関所へと続く旧道は、現在も国指定史跡として保存されています。旧街道沿いには、茶屋跡や一里塚、神社仏閣などが点在。往時の旅情を感じながら歩けるのが、この道の魅力です。
距離は約16km前後、所要時間は休憩を含め4~6時間。立ち寄りや食事を楽しんでも日帰りで踏破できる行程です。
石畳や坂道が多く滑りやすい箇所もあるため、防水性とグリップ力を備えた靴が安心。舗装路も多く整備されており、初心者でも無理なく歩ける中程度の体力度です。
トイレや休憩所も適度に点在し、歴史散策と自然歩きを合わせて楽しめる人気のハイキングコースとなっています。
箱根旧街道へのアクセス・行き方

箱根旧街道の起点は箱根湯本駅。小田原駅から箱根登山線で約15分、東京からは新宿発の特急ロマンスカーで約90分と、都心からのアクセスも良好です。ゴール地点の箱根関所跡からは、「箱根関所跡」や「箱根町港」バス停から箱根湯本行きの登山バスが運行しているので復路も安心。気軽に歴史の道歩きを楽しめます。
箱根旧街道ハイキングコースと見どころ

ここからは、湯本から箱根関所跡までの道を5つの区間に分けて紹介します。古道の情緒と自然の変化を味わいながら、観光とハイキングを両立できる道のりです。
第1区 湯本の温泉街から猿沢の石畳へ

出発は箱根湯本駅。駅前の商店街を抜け、国道1号を小田原方面へ少し戻ると、早川を渡る三枚橋に出ます。

ここが旧東海道と七湯道の分岐点で、箱根旧街道の歩き始めです。

三枚橋を渡ってすぐ左手にある白山神社。境内の奥には小さな社が佇み、旅の安全を祈る人の姿も見られます。湧き出る御神水「白山水」も名水として知られます。

白山神社から旧街道を進み、右手の細い通りを入ると戦国武将・北条早雲を祀る早雲寺があります。山門越しに箱根の稜線を望む静かな寺院で、梅や桜が咲く春先には、旧街道を歩く人々の目を楽しませます。

さらに進むと正眼寺は曽我兄弟ゆかりの寺。父の仇討ちにまつわる碑が立ち、鎌倉時代からの物語を今に伝えています。

湯本茶屋の一里塚跡は、江戸・日本橋から二十二里目にあたる地点。往時は旅人が道のりを確かめる目印となっていました。今も石碑が静かに立ち、旧東海道を歩く人々を見守っています。

一里塚跡を過ぎて県道732号を右に下ると、旧道特有の石畳道「猿沢石畳」へ。入口には馬の水桶跡が残り、かつて馬子が休んだ馬立場の名残を感じます。

約250m続く石畳の道を歩けば、木々の間から小川のせせらぎが聞こえます。濡れた石は滑りやすいので、足元に注意を。途中、分岐がありますが、左側の上り坂の方に進みましょう。石畳の出口右手にある箱根観音福寿院では、参拝や湧水でひと息つけます。
第2区 観音坂を越え、須雲川の渓流をたどる道へ

県道に戻ると、頭上に赤い高架橋をもつ箱根新道が現れます。現代の道路と旧街道が交わる象徴的な光景です。

ホテル南風荘前の分岐に立つ「観音坂石碑」が、旧街道の登り口の目印。ここからおよそ200mの上り坂が続き、江戸時代の旅人も難儀したと伝わります。

坂を越えると、旧須雲川村の鎮守・駒形神社の鳥居が見えてきます。

隣接する鎖雲寺には、江戸時代に語り継がれた「箱根霊験躄仇討」の伝承が残り、境内には主人公・飯沼勝五郎と妻・初花の墓が並んでいます。
<少し先の左手にあるバイオトイレは、ハイカーにとって貴重な休憩ポイント。バイオトイレ少し進むと、「須雲川自然探勝歩道」への分岐が見えてきます。

渓流沿いを歩く木陰の道で、夏はとくに涼やか。川の音を聞きながら森林浴を楽しめる癒やしの区間です。

入口付近には「女転し坂碑」。馬に乗った女性が転倒したという伝承が残る急坂です。須雲川自然探勝歩道をしばらく進むと再び県道に戻ります。
第3区 割石坂から畑宿へ 寄木細工の音が響く宿場の里

県道を進むと右手に「割石坂入口」。割石坂の石畳を抜けると接待茶屋跡があります。

県道に出たあと車道沿いを歩いていくと「箱根旧街道」の標識が現れます。左手に下る旧道の入口がありますが、現在は工事のため通行できません。そのまま県道を直進しましょう。

やがて民家が増え、宿場の雰囲気が漂う畑宿の集落へ。かつて大名が休泊した畑宿本陣跡の説明板を確認しながら進みます。

旧畑宿村の鎮守・駒形神社と、隣接する太子堂には木工の祖・聖徳太子が祀られています。木の香りが漂う境内は落ち着いた空気に包まれます。

寄木細工の実演・体験ができる畑宿寄木会館では、職人の手技を間近に見ることができます。コースターづくりなど、短時間の体験も人気。

集落を抜けると守源寺参道の左奥に一里塚が残されています。

円形に盛られた塚は日本橋から二十三里目。湯本からおよそ9km地点です。
第4区 畑宿から甘酒茶屋へ 峠の茶屋文化をたどる坂道

畑宿の一里塚を過ぎると、西海子坂の石畳が始まります。緩やかな登りが続き、杉木立に囲まれた静寂の道。風の音と足音だけが響く空間に、峠へ向かう古道の厳かな雰囲気が漂います。

途中、箱根新道を渡る橋があり、橋上にも石畳が敷かれています。古道と現代の道路が交わる瞬間です。

坂を登りきると西海子坂石碑が現れ、ここで県道に合流します。

県道732号の七曲り区間は、ヘアピンカーブが連続。

歩行者用の階段でショートカットができる場所もあります。

七曲りを過ぎると左手に橿木坂の入口。

急な石段を登ると見晴橋に出ます。天気が良ければ橋からは相模湾方面を一望できます。

見晴橋近くの「見晴茶屋 兎月」では、そばや甘味が人気。旅人の休憩処として今も息づく一軒です。

見晴茶屋から県道を進み、猿すべり坂バス停の先にある横断歩道で道路右側へ渡り階段を上ります。そこからは県道に沿った歩道が続きます。

追込坂石碑からわき道に入ります。道は登山道のような印象です。

しばらく登山道のような道を進むと、左手に甘酒茶屋が見えてきます。名物の甘酒と力餅でエネルギーを補給しましょう。
第5区 甘酒茶屋から関所跡へ 杉並木を抜けて芦ノ湖へ

茶屋の裏手から石畳が再び現れ、笹や杉林の中をゆるやかに登ります。

県道737号を横断すると、白水坂・天ヶ石坂・権現坂の石畳が連なり、杉に囲まれた静寂の道が続きます。

やがて下り坂に転じ、権現坂の石碑を過ぎ少し進むと視界が開けてきます。

国道1号線に合流し左に向かえば、朱塗りの大鳥居が待ち構えています。

右手に芦ノ湖が広がれば、旅の終わりが近づきます。
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湖畔を進むと「元箱根旧街道杉並木」入口。

江戸幕府が旅人のために植えた杉並木で、樹齢400年を超える木々が並びます。

杉並木を抜けると、恩賜箱根公園の駐車場があり、その左奥へ進むと黒塗りの門が印象的な箱根関所跡。古道の記憶をたどる約16kmの旅が、ここで静かに締めくくられます。
箱根旧街道ハイキングを安全・快適に歩くための実践ガイド

箱根旧街道を歩く前の準備と装備
石畳の多い旧街道では、防水性とグリップ力のある靴が最重要。滑りやすい苔や濡れた石も多いため、スニーカーより軽登山靴が安心です。
また木陰が多く気温差が出やすいので、薄手のレインウェアやウィンドシェルを携行しましょう。
水分や軽食は畑宿や甘酒茶屋で補給可能ですが、混み合う時期は余裕を持った準備が理想。
ストックを持参すれば、坂道の多い行程でも脚への負担を軽減できます。
雨天時・濡れ石の注意点(石種と滑りやすさ)
旧街道の石畳は、花崗岩や安山岩などが混在しています。花崗岩は水に濡れると光沢が出て滑りやすく、安山岩は比較的グリップが効きます。雨の日は石の継ぎ目や苔の多い区間(猿沢石畳・白水坂など)で特に注意を。
筆者も実際に小雨の日に歩いた際、濡れた石が想像以上に滑りやすく、靴底の泥をこまめに落としながら進む必要がありました。傘よりもレインウェアと帽子を使う方が安全です。
歩道のない区間での安全歩行ポイント
箱根湯本~観音坂周辺は、車道脇を歩く場面が多く注意が必要です。歩道がない区間では、原則として進行方向に向かって右側(車と対面する側)を歩くのが安全です。
右カーブ・左カーブどちらでも、車の動きが見える位置に立ち、無理に車線を横断しないようにしましょう。特に右カーブでは車から歩行者が見えにくくなるため、早めに立ち止まって安全を確認して進むのが安心です。筆者自身、この区間では車の音に神経を使い、時折立ち止まって安全確認をしながら進みました。安全確認しながら歩行するよう心がけてください。
混雑を避ける時間帯とバス乗車のコツ
復路のバスは「箱根関所跡」停から乗ると、混雑時もバスに乗車しやすいです。「箱根町港」から乗ると、観光客の乗車と重なることがありバスに乗車できないこともあるので注意しましょう。
箱根旧街道ハイキングのよくある質問(FAQ)

Q1. 所要時間はどのくらいですか?
全長約16kmで、休憩を含め4~6時間が目安。寄木細工体験や茶屋での休憩を含めても日帰りで十分に歩けます。
Q2. どんな装備が必要ですか?
トレッキングシューズ、防水性のある靴、薄手のレインウェアがおすすめ。夏は木陰が多く涼しい一方、冬は冷え込みが厳しいため手袋や防寒着を。
Q3. トイレや休憩所はありますか?
湯本・畑宿・甘酒茶屋のほか、観音坂付近のバイオトイレが利用可能。茶屋では飲み物や軽食も取れます。
Q4. 初心者でも歩けますか?
舗装路が多く道標も整備されています。体力度は中程度で、初心者でも問題ありません。不安な場合は「湯本~畑宿」や「甘酒茶屋~関所跡」などのコースもおすすめです。
箱根旧街道ハイキングの魅力と楽しみ方

石畳を踏みしめながら、江戸の旅人たちが歩いた道をたどる。箱根旧街道は、歴史と自然が調和する“歩く文化遺産”です。湯本の温泉街から始まり、杉並木や寄木細工の里を抜け、峠の茶屋へ。歩くごとに時代が移り変わるような感覚が味わえます。
苔むした石畳に射し込む木漏れ日、風に揺れる杉の葉、遠くにのぞく芦ノ湖の青。道中の神社や石碑が、静かに往時の旅の情景を語ります。季節を問わず楽しめるハイキングコースであり、一歩ごとに「旅をすること」そのものの豊かさを感じさせてくれる、箱根を代表するハイキングルートです。

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