鋸山登山で東京湾の絶景と歴史にふれる 初心者も楽しめる房総の人気ハイキング

千葉県・房総半島にそびえる鋸山(のこぎりやま)は、ノコギリの刃のようにギザギザとした稜線が印象的な名峰。標高は329mと控えめながら、スリル満点の「地獄のぞき」や、日本一の大仏、東京湾を見渡す展望台など、見どころが凝縮された登山スポットとして親しまれています。
アクセスの良さも魅力で、都心から日帰りできることから、登山初心者やファミリーにも人気。登山道は複数あり、自然と文化遺産の両方を味わえるコースが揃っています。
今回は、かつて房州石を運ぶために使われた「車力道(しゃりきみち)」から山頂を目指し、「地獄のぞき」や「日本寺大仏」など鋸山の名所をめぐる、初心者にもおすすめのモデルコースでの鋸山登山をご紹介します。
目次
鋸山ってどんな山?東京湾を望む歴史ある観光・登山スポット

山の稜線。剥き出しの岩肌が麓からもよくわかる
千葉県・房総半島の富津市に位置する鋸山は、標高329mながらも岩肌がむき出しのダイナミックな山容が特徴で、東京湾フェリーの発着港「浜金谷」のすぐ背後にそびえています。ノコギリの刃のようにギザギザとした稜線がその名の由来であり、かつては「房州石」の産地としても知られた歴史ある山です。
都心からのアクセスがよく、日帰りで楽しめる鋸山登山は、山頂からの東京湾の絶景や、海に近い地形を活かした眺望、石切場跡の遺構など、多彩な魅力にあふれています。山と海の風景を一度に楽しめるのも、鋸山ならではの魅力。観光とあわせて気軽に歩ける点も、登山初心者に人気の理由です。
鋸山へのアクセス

起点となるJR浜金谷駅。東京駅から約2時間
【電車の場合】
JR内房線「浜金谷駅」から、登山口のひとつである「車力道登山口」までは徒歩約10分。駅前には案内板も整備されており、鋸山登山が初めての人でも迷わずアクセスできます。
【車の場合】
館山自動車道「富津金谷IC」から約5分。駅周辺やロープウェー山麓駅付近には有料駐車場(1日500円〜)が点在しており、登山や観光の拠点として利用しやすくなっています。
初心者にも歩きやすい鋸山登山コース 車力道から地獄のぞきと日本寺大仏へ

標高329mと手頃な高さでありながら、絶景と歴史遺産を楽しめる鋸山登山は、登山初心者にも人気のハイキングコースです。ただし、ルートによっては階段や急坂も多く、アップダウンも侮れません。歩きやすいとはいえ、登山用の靴や服装など基本的な装備は整えておくと安心です。
今回ご紹介する「車力道ルート」は、かつて房州石を運搬するために石を積んだ台車が通った道。苔むした石畳や、石切り場跡、猫丁場(ねこちょうば)などの見どころを通りながら山頂へと至る、鋸山らしい風情を味わえるコースです。展望台や「地獄のぞき」からの東京湾の眺望も圧巻で、観光としても満足度の高い鋸山登山が楽しめます。
鋸山登山コースの基本データ(車力道ルート)

・標高:329m
・比高:約320m
・総歩行時間:上り 約1時間20分/下り 約1時間55分
JR浜金谷駅→(10分)→車力道登山口→(40分)→猫丁場→(20分)→東京湾を望む展望台→(20分)→鋸山山頂→(30分)→切り通し跡→(30分)→日本寺北口事務所→(5分)→地獄のぞき→(25分)→日本寺大仏→(20分)→ロープウェー山頂駅→(5分)→ロープウェー山麓駅→(10分)→JR浜金谷駅
駅から鋸山登山口へ 石畳の道を歩く

関東ふれあいの道と車力道ルートの分岐
JR浜金谷駅を出てすぐ、登山道入口までの道には案内板がしっかりと整備されており、初めての鋸山登山でも迷う心配はありません。ただし、登山道に入るとトイレや売店はほとんどありません。駅周辺や近くのコンビニで軽食や飲み物を調達し、トイレも済ませておくのがおすすめです。
駅から5分ほど歩くと、3方向に分かれる分岐点に出ます。今回紹介する「車力道コース」へ向かうには、ここを左へ進みます。正面の階段から始まる「関東ふれあいの道」は山頂への最短ルートですが、階段が多く単調な印象。一方で車力道は、登山道の勾配が比較的ゆるやかで、石切場跡や苔むした石畳など見どころも豊富。鋸山登山の雰囲気をじっくり味わいたい初心者には、こちらのルートが適しています。
車力道コースの入口が近づくと、削り取られた鋸山の岩肌が目の前に現れ、その迫力に思わず足を止めてしまいます。トンネル脇に続く山道が、鋸山登山のはじまりを告げる車力道のスタート地点です。
房州石の歴史が刻まれた「車力道」

車力は主に女性で、1日に3往復もしていたという
「車力道(しゃりきみち)」とは、かつて鋸山で切り出された房州石を山のふもとまで運ぶために使われていた石の運搬道です。明治から昭和初期にかけて、この道を「車力」と呼ばれる人々が、手押し車で重い石を下ろしていたと伝えられています。
鋸山登山のルートとしても人気のあるこの道は、苔むした石畳や手積みの石垣、緩やかな勾配の階段など、往時の面影を色濃く残しており、歩くだけで歴史の空気を感じられるのが魅力です。木陰が多く、真夏でも比較的涼しく歩けるため、気候を問わず快適に楽しめる登山道となっています。
鋸山の猫丁場で石壁アートを発見

石切職人が彫った猫のレリーフ
車力道を登り始めて約40分。登山道上に分岐点の看板が現れます。本来の鋸山登山ルートは左ですが、ここで少し寄り道して右手の「猫丁場(ねこちょうば)」方面へ。数分歩くだけで到着するこのスポットは、鋸山の中でも隠れたフォトジェニックな名所です。
石切り場として使われていた猫丁場では、切り立った石壁に「手毬で遊ぶ猫」が彫られており、その可愛らしさに思わず足を止めてしまいます。

鴨川市在住のアーティスト・飯田善郎ベンヤミンが手掛けた
名前の由来にもなったこの彫刻に加え、右奥にはハートの形に見える自然の石模様やアート作品もあり、鋸山登山の途中にちょっとした癒しを与えてくれる場所です。
鋸山の展望台へ 階段の先に広がる東京湾の絶景

この分岐Eを手前の展望台方面へと進む
猫丁場をひととおり見終えたら、元の道を戻り、左手の車力道コースを再び進みます。5分ほど歩いたところで、再び分岐点の案内板が登場。後ほど訪れる日本寺方面はいったん後回しにして、まずは鋸山登山のハイライトのひとつ、「東京湾を望む展望台」を目指します。

山頂付近は狭い階段が続く
分岐から展望台まではおよそ20分。ただし、ここからは鋸山登山の中でもやや踏ん張りどころ。階段が続き、傾斜も一段と急になります。足元が不安定な箇所もあり、雨天時やその翌日は特に滑りやすいため、滑り止め付きの登山靴やトレッキングシューズの着用がおすすめです。

ゆるやかにカーブを描く地平線が視界いっぱいに広がる
息を切らしながら登り切った先に現れる展望台は、まさに絶景。東京湾の青い海が眼下に広がり、正面には三浦半島、右手には房総の海岸線が望めます。空気が澄んだ日には富士山の姿が見えることもあり、その眺望は思わず息をのむほど。登山者のあいだでは「鋸山登山で絶対に訪れたい場所」として知られています。
この展望台は「地球が丸く見える展望台」とも呼ばれ、開放感抜群のビュースポット。風通しがよく、ベンチも設置されているので、ここで景色を眺めながらひと休みするのもおすすめです。
鋸山の山頂でひと息 房総の景色を楽しむ

山頂には標識や三角点の石柱がある
展望台で絶景を堪能したあとは、鋸山の山頂へ。そこからさらに30分ほど歩けば、標高329mのピークに到着します。鋸山登山のゴールのひとつともいえる山頂には、展望台のような開けた眺望はないものの、木々の間から東京湾や房総の山並みを望むことができ、落ち着いた雰囲気が漂います。
頂上には山頂標識もあり、記念写真を撮る登山者の姿もちらほら。周囲は比較的静かで、風に揺れる木々の音に耳を傾けながら、登り切った達成感にひたるのにちょうどよい場所です。鋸山登山の締めくくりとして、しばし心を落ち着けてみてはいかがでしょうか。
鋸山名物の地獄のぞきと日本寺をめぐる下山ルート

山頂でひと息ついたら、いよいよ鋸山登山の後半戦。先ほどの分岐まで引き返し、「関東ふれあいの道」を経由して、鋸山の名物スポット「地獄のぞき」や「日本寺」をめぐる下山ルートへと入っていきます。鋸山登山の中でも、見どころが凝縮されたこの区間は、歴史と迫力ある景観の連続です。
石切り場の記憶が残る切通し跡と岩舞台

採石の歴史と迫力を感じられる「ラピュタの壁」
日本寺方面へ向かう道中には、まず「切通し跡」が現れます。人の手で垂直に切り出された岩の回廊は、まるで巨大な遺跡のような迫力。映画『天空の城ラピュタ』のような景観が広がる絶景スポットは、垂直に切り立った岩壁と緑のコントラストが印象的です。
さらに進むと次の分岐に到着。そのまま日本寺方面へ下ることもできますが、少し時間に余裕があれば、分岐から片道5分ほどの場所にある「岩舞台」へ足をのばすのもおすすめです。この周辺には、かつて使われていた石切り場の重機の遺構が点在しており、産業遺産的な趣も感じられます。

初夏の日本寺周辺の岩場にはイワタバコの花が咲いている
寄り道を終えたら分岐に戻り、日本寺方面へ。ここからは30分ほどの道のりで、日本寺の北口管理所に到着します。ここで拝観料(大人700円)を支払い、いよいよ「地獄のぞき」へと向かいます。
鋸山の地獄のぞきでスリル体験 断崖の絶景を満喫

岩壁に彫られた百尺観音。交通安全のご利益あり
関東最古の勅願所とされる日本寺は、約1300年前、聖武天皇の勅願により行基菩薩が開いたと伝わる由緒ある寺院。鋸山登山の終盤に訪れるこのエリアは、歴史と迫力ある景観が共存する特別な場所です。
北口管理所を入ってすぐ目に飛び込んでくるのは、高さ約30メートルの「百尺観音」。太平洋戦争の戦没者や交通事故犠牲者を供養するため、6年もの歳月をかけて彫られた巨大な磨崖仏です。その姿を静かに見上げ、手を合わせたら、いよいよ鋸山登山のハイライト「地獄のぞき」へと向かいます。

地獄のぞきには手すりが整備されており、安全に写真撮影が行える
切通しの岩道を進み、階段を上がった先に現れる地獄のぞきは、鋸山の断崖絶壁から張り出したスリル満点の展望スポット。足元には高さおよそ100メートルの垂直の崖が広がり、その先端ギリギリまで歩くことができます。眼下に広がる大パノラマと、足元の空間に吸い込まれそうな感覚は、鋸山登山ならではの特別な体験です。
鋸山大仏に出会う 圧倒的な存在感を体感

道中の石像群。ところどころに首がない像が見られる
地獄のぞきでスリル満点の絶景を味わったあとは、そのまま南側の階段を下り、大仏広場へと向かいます。ここからは20分ほどの下り道。道中には多数の石仏が点在しており、鋸山登山の締めくくりにふさわしい、静かで荘厳な雰囲気に包まれます。

師瑠璃光如来。戦傷を癒すとされ、左手には薬壷を持っている
広場に到着すると目に飛び込んでくるのが、日本寺の大仏。「薬師瑠璃光如来」をかたどったこの石仏は、総高31メートルを誇り、奈良や鎌倉の大仏を超える日本一の大きさを持つとされています。その迫力には思わず圧倒されるほどで、鋸山登山の疲れも忘れて見入ってしまうほどの存在感です。
鋸山の豊かな自然と、長い歴史の中で刻まれた文化遺産の数々。その象徴ともいえるこの大仏は、鋸山登山を通して訪れる価値のある名所です。
鋸山の下山ルートはロープウェーか徒歩か 体力に応じて選択

ロープウェーは片道650円
大仏を見学したら、いよいよ鋸山登山も下山へ。この先は、保田駅方面へそのまま歩いて下るルートと、階段を20分ほど登り返してロープウェー山頂駅から一気に下るルートの2通りがあります。体力や時間に合わせて、無理のない方法を選びましょう。
ロープウェーは、平日は15分間隔、土日祝は10分間隔で運行。展望窓が開放された珍しい車両で、風を感じながら東京湾を見下ろす空中散歩が楽しめます。登ってきたルートを振り返りながら下っていくと、自然と達成感がこみ上げてくるはずです。
鋸山登山全体の所要時間は、休憩や写真撮影を含めて約5時間。朝8時にスタートすれば、午後1時には下山できるペース感です。帰りの電車やフェリー、グルメなどと組み合わせて、充実した1日を楽しんでみてはいかがでしょうか。
鋸山登山の締めくくりはご褒美アジフライ

富津市周辺で獲れるアジは「黄金アジ」と呼ばれ、身が厚く脂がのっている
鋸山登山を終えて浜金谷駅へ向かう道すがらには、地元名物のアジフライを提供する人気店が点在しています。房総半島ならではの新鮮なアジを使った揚げたての一皿は、登山後の体にじんわり染みわたるご褒美グルメ。
衣はサクサク、中はふっくらジューシー。たっぷり歩いた後だからこそ感じられる満足感があります。鋸山登山の締めくくりとして、地元の味で心もお腹もほっと満たしてみてはいかがでしょうか。
鋸山登山で歴史と絶景を堪能しよう

地獄のぞき、日本寺の大仏、東京湾を一望できる展望台など、見どころが凝縮された鋸山。歩くごとに岩肌の表情や眺望が変わり、ただのハイキングでは味わえない奥深さがあります。歴史と自然が融合した鋸山登山は、思わず時間を忘れてしまうような体験になるでしょう。
「登山」と聞いて少し身構えてしまう初心者の方でも、標高329mの鋸山なら安心して楽しめます。アクセスも良好で、日帰りで絶景と文化を満喫できるのも魅力のひとつ。次の休日は、鋸山登山で夏の思い出に残る一日を過ごしてみてはいかがでしょうか。

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