涸沢カールの紅葉登山ガイド 上高地から1泊2日で楽しむ絶景と名所

標高2,300mを超える北アルプスの名所・涸沢カールは、穂高連峰の中腹に広がる氷河地形。秋になると、赤・黄・緑の三色が織りなす鮮やかな紅葉で山肌が彩られ、多くの登山者を魅了します。
本記事では、上高地からスタートする1泊2日の定番ルートをベースに、紅葉の見どころや登山道中の休憩ポイント、宿泊施設、登山計画のポイントまでわかりやすく解説。登山初心者の方でも無理なく挑戦できるよう、アクセス方法や注意点も丁寧にご紹介します。
秋の北アルプスで、忘れられない紅葉登山を体験してみませんか?
涸沢カールとは?紅葉の名所として名高い北アルプスの絶景地

上高地の奥に広がる氷河圏谷「涸沢カール」
長野県松本市、北アルプス・穂高連峰の中腹に広がる涸沢カールは、日本有数の氷河地形として知られる場所。標高は約2,300m、山岳地帯の中でもとくに美しい紅葉が見られるスポットとして、毎年秋になると多くの登山者が訪れます。
カールとは、氷河の侵食によってできたお椀状の地形のこと。涸沢カールは、穂高岳・北穂高岳・涸沢岳など3,000m級の名峰に囲まれた場所に位置し、そこに広がる紅葉は「日本一美しい」とも言われるほど。赤や黄色に色づくナナカマドやダケカンバの斜面と、背後にそびえる岩峰群のコントラストは、まさに圧巻です。
登山口は、観光地としても有名な上高地。そこから片道約6時間、歩行距離およそ15kmの登山ルートをたどって涸沢カールを目指すことになります。
決して手軽な距離ではありませんが、道中は整備されており、初心者でも計画を立てて歩けば到達可能。特に9月下旬から10月上旬の紅葉シーズンには、テント泊や山小屋泊でこの絶景を楽しむ登山者があとを絶ちません。
涸沢カールの紅葉の魅力

陽光で輝く「涸沢カール」のナナカマド
涸沢カールが「日本一美しい紅葉スポット」と称される最大の理由は、赤・黄・緑の色彩が織りなす三段のグラデーション。毎年9月下旬から10月上旬にかけて、ナナカマドやダケカンバなどの高山植物が一斉に色づき、涸沢カール全体が秋のパレットのように染まります。
特に人気を集めるのが、涸沢ヒュッテから見上げる北穂高岳方面の景色。手前の紅葉(赤・黄)が絨毯のように広がり、その奥にはハイマツなど常緑樹の緑、さらにその上には灰色の岩峰群がそびえる、まさに三段構成の絶景です。
この鮮やかな色彩は、標高2,300mという高山ならではの冷涼な気候と、昼夜の寒暖差によって生まれるもの。下界では見られない、澄んだ空気と静けさに包まれながら、色彩の移ろいを目の前に感じられるのも、涸沢カールの魅力のひとつです。
アクセスと入山までの流れ

信州屈指の秘境「上高地」から登山開始
涸沢カール登山のスタート地点となるのは、日本有数の山岳景勝地「上高地」。登山だけでなく観光地としても知られ、多くの登山者がこの地から涸沢カールを目指します。
上高地までのアクセス方法
上高地まではマイカーの乗り入れが規制されているため、長野県側の「沢渡駐車場」または岐阜県側の「あかんだな駐車場」に車を停めて、そこから路線バスまたはタクシーに乗り換える必要があります。
【松本側】沢渡駐車場(1日800円程度)
アルピコ交通バスで上高地バスターミナルまで約30分(往復2,800円)
【高山側】あかんだな駐車場(1日600円程度)
濃飛バスで約35分(往復2,800円)
公共交通を利用する場合は、JR松本駅またはJR高山駅からのアクセスが便利です。いずれも早朝発の便があるため、できれば午前8時までには上高地へ到着しておきましょう。
入山の流れ

上高地バスターミナル
上高地バスターミナルに到着したら、トイレや装備の確認を済ませて、いよいよ登山のスタートです。バスターミナルから歩いてすぐの「河童橋」が本格的な登山の出発点。まずはここから穂高連峰を望みながら、気持ちを高めていきましょう。
登山届の提出もお忘れなく。長野県では登山届の提出が義務付けられており、上高地の登山ポストまたは事前にWEBで提出できます。
登山道ははじめの約3時間がゆるやかな林道。梓川に沿って、明神・徳沢と進んでいく整備された道が続きます。登山というよりもハイキングに近い感覚で歩ける区間なので、自然の風景を楽しみながら体を慣らしていきましょう。
1泊2日の涸沢カールの紅葉登山モデルコース|上高地から涸沢カールへ

登山者を魅了する「涸沢カール」秋の絶景
涸沢カール登山は、1泊2日で片道約6時間の行程。1日目は涸沢カールのテント場または山小屋に宿泊し、2日目に同じ道を戻って下山します。ここでは実際のルートに沿って、登山初心者の方にもわかりやすくご紹介します。
【1日目】上高地からスタート、横尾経由で紅葉の涸沢カールへ(約6時間)
朝7時、上高地バスターミナルから涸沢カールへの登山がスタートします。気温はひんやりとしていますが、空は晴れ渡り、穂高の山並みがくっきりと望める絶好の登山日和。バスターミナルから徒歩2〜3分で河童橋に到着し、ここから梓川沿いに続く穏やかな道を歩いていきます。
■上高地バスターミナル → 明神(約50分)

歩きやすい木道が続く
河童橋を渡ってしばらく歩くと、清流・梓川のせせらぎと共に静かな森に入っていきます。足元は整備された平坦な道で、初秋のこの時期はダケカンバの葉がほんのり黄色く染まり始め、森の中に秋の気配が漂っています。

多くの観光客や登山客がここでひと息入れてから再出発
約50分で明神に到着。ここには「明神館」という山小屋があり、トイレや軽食の提供もあるため、短い休憩をとるのにぴったり。ここからは明神岳の尖った稜線が間近にそびえ、奥へ進む道の期待感がぐっと高まっていきます。
■明神 → 徳沢(約1時間)

まるで油絵のような、紅葉彩る「北穂高岳 」
明神を出ると、再び梓川沿いの平坦な林道が続きます。日差しが少しずつ差し込むこの時間帯、紅葉が進んだ木々の間から木漏れ日がキラキラと揺れて、森の中を歩いているだけで癒やされます。

徳沢まででも十分楽しめる ※写真は夏の徳沢
約1時間で徳沢へ。広々とした芝生の広場にベンチが並び、キャンプ場としても人気のエリアです。「徳澤園」では、名物のコーヒーソフトクリーム(500円)を楽しむ登山者の姿も多く見られ、ここでのんびりとした時間を過ごすのも登山の醍醐味のひとつ。身体も心もリフレッシュできます。
■徳沢 → 横尾(約1時間10分)

どこを見渡しても紅葉と高山のコントラストが堪らない
ここからの道も引き続き穏やかな林道で、川のせせらぎと紅葉した葉の音に包まれながら、ゆったりと歩を進めます。足元には落ち葉がふわりと重なり、秋の情緒がより濃く感じられるエリア。周囲には北穂高岳や屏風岩の岩壁が姿を現し、徐々に山のスケール感が増していきます。
約1時間10分で横尾に到着。ここには「横尾山荘」があり、休憩スペースやトイレも完備。ベンチで軽食を取る人や、これから本格的な登りに備えて装備を整える登山者でにぎわっています。
■横尾 → 本谷橋(約1時間)

樹林帯の先には「奥穂高岳」の頂が立ちはだかる
いよいよここからが本格的な登山のスタート。道は徐々に傾斜を増し、これまでの林道から山道らしい岩混じりの道へと変化していきます。梓川の流れはここで「本谷川」と名を変え、谷を挟んで穂高の岩稜が近づいてくるのがわかります。
道の途中、ひときわ色鮮やかなナナカマドの赤やダケカンバの黄色が目に入り、登山道の景色は一気に紅葉モードに。足を止めてカメラを構える登山者の姿もちらほら。写真を撮る手が止まらなくなるスポットです。
本谷橋に到着すると、川の清流がゴウゴウと音を立てて流れ、その上をかかる吊り橋が次のステージへの入口となります。ここで軽く昼食を取り、最後の登りに備えましょう。
■本谷橋 → 涸沢カール(約2時間)

巨壁のような穂高連峰を彩る紅葉の絨毯
橋を渡ると、いよいよ涸沢への最後の急登「Sガレ」へ突入。ゴロゴロとした岩が続く道は、歩幅の取り方にも注意が必要。無理せずマイペースで登ることがポイントです。
やがて登山道の木々がまばらになり、開けた谷に出ると、目の前に鮮やかな紅葉が一気に視界に広がります。周囲の山肌は赤・黄・緑の三段グラデーション。まるで絵画のような風景に思わずため息が出るほどです。
午後3時ごろ、ようやく涸沢ヒュッテに到着。ヒュッテのデッキでは、名物のおでんやビールを手にした登山者たちが紅葉の絶景を前にくつろいでいます。隣接するテント場には、カラフルなテントが点在し、山の紅葉と見事なコントラストを描きます。
■テント場での過ごし方

テント泊の場合は、受付で利用料金(1人2,000円)を支払い、空いているスペースにテントを設営。涸沢ヒュッテのトイレや水場も利用できるので安心です。
夕食は山小屋で食べてもよし、自炊してもよし。夕暮れが近づくと、空の色がゆっくりと変化し、穂高連峰に夕日が差し込む絶景が広がります。寒さが厳しくなる夜に備え、防寒対策は万全に。

宝石のように輝く「テント夜景」
こうして、登山1日目は終了。紅葉の絶景と秋の涼やかな空気の中で過ごす山の夜は、日常とは全く異なる特別なひとときとなるでしょう。次は、いよいよモルゲンロートとともに迎える2日目のスタートです。
【2日目】モルゲンロートを堪能し、余韻に浸りながら上高地へ下山(約5時間)
夜明け前の静寂。テント場や山小屋では、まだ暗いうちから多くの登山者が支度を始めます。目的はひとつ——“モルゲンロート”と呼ばれる、山の頂が朝日に染まる瞬間を捉えるためです。
■早朝4:30〜5:00頃、涸沢カールに差し込む光

登山者が一度は憧れる「涸沢カール」の燃える絶景
やがて空がわずかに白み始め、空気がピンと張りつめるように冷たくなってきます。東の空から朝日が差し込むと、奥穂高岳や涸沢岳の岩稜が徐々に淡いピンク色に染まり、次第に赤みを帯びていきます。
この「モルゲンロート」は、登山者の多くが息をのんで見つめる涸沢最大の見どころ。静寂の中、目の前に広がる自然のアートに、言葉を失う瞬間です。
澄んだ空気の中、赤く染まる山肌と、その下に広がる紅葉の斜面。下界では出会えないこの光景は、早起きしてでも見る価値があります。
■朝食と撤収、テント場の賑わいも名物のひとつ
モルゲンロートを楽しんだあとは、各自朝食を取り、テントを撤収。テント場では湯気の立つバーナーの音や、ザックを詰める音が響き、山小屋ではコーヒーと軽食を楽しむ人の姿も見られます。
登山者たちは、日常では味わえない静けさと自然の美しさに浸りながら、帰路の準備を整えていきます。
■涸沢カール → 横尾(約3時間)

多くの登山者が利用するコースだから下山も安心
午前7時頃、いよいよ下山開始です。登ってきたルートを引き返す形になりますが、朝の光に照らされた紅葉の山肌は、前日とはまた違った表情を見せてくれます。
Sガレの岩場は足元に注意しながら慎重に。本谷橋を渡ると道はなだらかになり、木漏れ日の中をゆっくりと歩く時間が始まります。
時折立ち止まり、振り返れば、涸沢カールが遠ざかりつつも確かな存在感でそこにあります。約1時間半〜2時間ほどで本谷橋、さらに歩を進めて午前10時頃には横尾山荘に戻ってくることができるでしょう。
ここでしっかりと休憩を取り、水分とエネルギーを補給しておくことが大切です。
■横尾 → 上高地(約3時間)
横尾から先は、徳沢・明神といった前日のルートを逆にたどります。長く続く林道と木々のアーチは、まるで登山を締めくくる“余韻の道”のよう。川のせせらぎや紅葉の彩りに癒されながら、心地よい疲れを感じつつ歩いていきましょう。
徳沢の芝生広場で休憩をとり、明神の清流で一息入れたら、ラストスパート。登山開始から2日目の午後、再び河童橋が見えてきたら、今回の登山がひとつの区切りを迎えます。
バスターミナルまで戻ったときには、自然の大きさと、自分の足でたどり着いた涸沢の美しさが心に刻まれているはずです。
標高差約800m、片道15km超のルートを踏破したこの2日間。大自然の厳しさと美しさを同時に体感できる涸沢カール登山は、まさに“人生で一度は行きたい場所”と言えるでしょう。
この絶景と感動を、ぜひあなたの目でも確かめてみてください。
秋の涸沢カール登山|装備と服装のチェックリスト

標高2,000〜3,000m級の北アルプス・涸沢カールは、平地とは気候も環境も大きく異なります。とくに紅葉シーズンの9月下旬〜10月上旬は、日中の気温が10℃を下回ることも珍しくなく、朝晩は氷点下になることも。美しい紅葉と絶景を満喫するためには、万全の装備と服装が欠かせません。
以下に、秋の涸沢カール登山に必要な装備と服装のチェックリストをご紹介します。
基本装備
・登山用リュック(30〜40L推奨/テント泊なら50L以上)
・登山靴(岩場に対応したソールの硬いもの)
・トレッキングポール(体力温存とバランス保持に)
・ヘッドライト(予備電池も忘れずに)
・地図とコンパス(もしくは登山アプリの事前ダウンロード)
防寒・天候対策
・ダウンジャケットまたはフリース(気温一桁に備えて)
・レインウェア上下(防風・防寒にも活躍)
・インナーは吸湿速乾素材(汗冷え防止)
・ニット帽・手袋・ネックウォーマーなど防寒小物
宿泊用品(山小屋 or テント泊に応じて)
・テント・シュラフ(※テント泊の場合)
・シュラフマット(断熱用)
・ヘッドライト・サンダル・洗面用具など
・テント場使用料(涸沢ヒュッテにて受付)
食料・水分
・行動食(ナッツやチョコ、エネルギーバーなど)
・水1.5〜2リットル(涸沢ヒュッテで補給可)
・カップ麺・インスタント味噌汁など軽量食
そのほか
・登山届(長野県公式サイトから提出、もしくは上高地で記入提出)
・ゴミ袋(ゴミは必ず持ち帰る)
・常備薬・応急セット
・日焼け止め・サングラス(高山は紫外線が強い)
秋の山では「日帰り装備では寒すぎる」ことも多くあります。防寒対策を万全にして、自然と向き合う安心・安全な登山を心がけましょう。
涸沢カールの紅葉登山で体感する、秋だけの絶景と静寂

真っ赤に染まったナナカマド、オレンジや黄色のダケカンバ、そこに切り立った岩峰群が加わる、まるで絵画のような世界。それが秋の涸沢カールです。
上高地から片道約6時間。歩く距離は決して短くありませんが、澄んだ空気、自然の静寂、夜の星空、そして朝焼けに染まるモルゲンロート。日常では味わえない瞬間が、そこには確かに存在しています。
山小屋やテント場に宿泊しないと出会えない景色があること。それが、涸沢カール登山の魅力です。必要な準備を整えて、ぜひ自分のペースで一歩ずつ歩いてみてください。
紅葉のピークは短く、年によって色づき方も異なりますが、どの年も唯一無二の美しさがあります。秋の涸沢カールで、自分だけの“山の絶景”を体感してみませんか?
取材・写真・文章:土庄雄平

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