箱根旧街道ハイキングでたどる歴史の道 石畳と峠越えの旅を歩く

石畳の続く古道、ひんやりとした森の空気、峠越えの達成感。箱根旧街道は、江戸時代の旅人気分を味わいながら歩ける歴史ハイキングルートです。
東海道五十三次の中でも難所とされた箱根越えを今に伝えるこの道には、甘酒茶屋や寄木細工の集落など、趣ある風景が点在。古道の風情と山道の静けさが調和するこのコースは、歴史が好きな方や、山歩きが初めての方にもおすすめです。
今回は、小田原宿から芦ノ湖・箱根神社までをたどる、約16.5kmの道のりをご紹介します。
目次
箱根旧街道ハイキングの基本情報と見どころ

東海道の宿場文化や自然の風景をたどる全長約16.5kmのルートです。城下町の名残が残る街道筋から、石畳の急坂、木立に囲まれた峠道まで、変化に富んだ道のりが続きます。アクセスが良く、日帰りで歩けるのも魅力のひとつです。
- ・距離:約16.5km(小田原宿〜芦ノ湖)
- ・所要時間:約7時間(標準コース、休憩含む)
- ・難易度:中級(舗装+未舗装、急坂あり)
- ・見どころ:板橋見附跡、猿渡石畳、畑宿、橿木坂、甘酒茶屋、芦ノ湖、箱根神社
- ・雰囲気:歴史の趣と自然の静けさが調和するルート
- ・注意点:石畳は滑りやすく、急坂もあるためトレッキングシューズがおすすめ。雨天時はレインウェアも忘れずに。
※国土地理院(電子国土Web)にスポットとルートを追記
※ルートは本記事のものです。一部、旧東海道とは異なる場合があります
小田原宿からスタート 城下町を抜けて東海道へ

江戸から数えて9番目の宿場、小田原宿。かつて多くの旅人が箱根を目指して歩いたこの地から、今回のハイキングが始まります。
JR小田原駅を出て、商店が並ぶ通りを進むこと約10分。やがて「小田原城跡」のお堀端に到着します。春には桜が咲き誇り、水面には花びらが浮かびます。
馬出門から中へ入り、中心部を目指すと、白く美しい天守が姿を現します。外から天守を見学したら、城の南側から国道1号に出て右折。ここから先、国道1号は旧東海道にあたります。

やがて新幹線の高架が前方に現れると、旧街道は国道を離れ、細い脇道へと入っていきます。すぐ先に「板橋見附跡」の案内板があり、かつての見張り所だったことが説明されています。この先からいよいよ、小田原宿を抜けて箱根方面へ向かうルートです。
再び国道に戻り、箱根登山鉄道と早川に沿って歩いていくと、小田原厚木道路の高架をくぐります。踏切を渡ると、旧東海道は住宅街の中へ。間もなく左手に風祭駅が見え、その隣には「鈴廣かまぼこの里」があります。
小田原の名物・かまぼこが並ぶこの施設では、お土産の購入はもちろん、併設のレストランでかまぼこ料理を味わうこともできます。ちょっとした休憩にぴったりです。
ここからさらに1時間弱歩くと、箱根湯本駅の近くに到着します。
箱根湯本から猿渡石畳へ 峠越えの登りが始まる

国道1号は箱根湯本駅前の商店街へと続きますが、旧東海道を歩くならば、三枚橋を渡って川の向こう側へ向かいましょう。

橋の先から、いよいよ箱根の山道が始まります。道幅は狭まり、勾配も徐々に急になっていきます。
沿道には温泉旅館が並び、車の往来も多いため、歩行には十分注意が必要です。歩道はなく、路側帯を進むことになります。
しばらく進むと、舗装路から緑に包まれた脇道へ分岐する地点が現れます。こうした分岐が芦ノ湖までにいくつかあるため、案内板を見逃さないよう注意しながら進みましょう。

その先には「猿渡石畳」と呼ばれる江戸時代の石畳道が残っています。草木に囲まれた石畳は風情があり、歴史の中に足を踏み入れたかのような感覚を味わえます。この道は今も地元の通学路として使われており、制服姿の学生とすれ違うこともあります。
舗装路に戻ると道幅は広くなりますが、歩道のない区間は続きます。足元に注意しながら、少しずつ標高を上げていきます。

箱根峠は東海道随一の難所として知られますが、その途中にも「女転し坂」など、かつての名残を伝える急坂が点在しています。現在でも一部はかなりの勾配があり、当時の旅の厳しさが偲ばれます。

「割石坂」の石畳を抜けて舗装路に合流し、しばらく歩くと、左手に「箱根旧街道」の案内板が現れます。その先は、森の中へと分け入るような下り道。木々が一段と深まり、旧街道の雰囲気がいっそう濃くなっていきます。
畑宿にひと息 寄木細工の集落と昼食ポイント

坂を下り、小さな木橋で小川を渡ると、やがて石畳の上り坂「大澤坂」が現れます。

木々が影を落とし、湿気も多いため、苔むした石畳は滑りやすくなっています。足元に気をつけながら進みましょう。坂を登りきると短い階段があり、舗装された道路へ。目の前に広がるのは、間の宿「畑宿」です。

宿場と宿場の間に設けられた休憩地で、江戸時代の旅人もここで一息ついたことでしょう。静かな山道を抜け、ふたたび人の姿が見えるこの景色に、心が少しゆるみます。
「畑宿」は、寄木細工の発祥の地として知られ、通り沿いには工房や専門店が点在。

蕎麦をはじめとした飲食店もあり、ちょうど昼どきに到着すれば、休憩や食事にぴったりのタイミングです。
この先も坂道は続くため、体力を整え、箱根旧街道ハイキングの後半へ備えましょう。
橿木坂の急坂を越えて 箱根峠への挑戦ルート

「畑宿」の通りを離れ、箱根旧街道の看板を目印に石畳の道へ。両脇に並ぶこんもりとした塚は「畑宿一里塚」。江戸時代、日本橋から一里ごとに設けられた道標で、塚の上には一本ずつ木が植えられています。撤去されることも多い中、ここでは往時に近い姿が再現されており、旅情をかき立てます。

石畳の坂道を登っていくと、途中で県道を橋で越え、さらに階段を登って再び県道へ。

ひと息つける舗装路が続いた後、左手に「橿木坂」への階段が現れます。

案内板によれば、この橿木坂は箱根峠随一の難所。急な坂に、旅人が「どんぐりの涙」を流したという逸話も残されています。急勾配が続くため、こまめな休憩を取りながら慎重に進みましょう。

分かれ道で元箱根方面に折れると、しばらくは平坦な森の小道が続きます。静まり返った木立の中にいると、ふと心細くなりますが、木々の向こうには県道を走る車の音が聞こえ、わずかながら心強く感じられます。
甘酒茶屋に到着 江戸の旅人気分でひと休み

いくつかの坂を登り、「追込坂」から自然探勝歩道を進んでいくと、左手にかやぶき屋根の建物が姿を現します。現在も多くの観光客が訪れる「甘酒茶屋」です。
屋内は薄暗く、囲炉裏の煙がほんのりと漂い、古き良き時代の趣を感じさせます。提供されているのは、江戸時代から変わらぬ製法で仕込まれた甘酒や、炭火で丁寧に焼かれた力餅。歩き疲れた体を労わる、ほっと安らげるひとときです。
この茶屋は、かつて箱根越えに挑む旅人たちが立ち寄った休憩処としても知られており、往時の面影を今に伝えています。ここまで来れば、芦ノ湖まではもうひと踏ん張りです。
箱根峠東側のクライマックス 最後の石畳を越える

店を出て10分ほど進むと、自然探勝歩道と県道が交差する地点に、旧東海道の案内板とともに石畳の道が現れます。ここが、箱根峠東側の最後の難所とされる坂道です。
木々に囲まれた石畳は、江戸時代にぬかるんだ峠道を整備するために敷かれたもの。当時の面影を今に伝えるこの道は、石の凹凸が大きく、雨天時は特に滑りやすいため、慎重に歩を進める必要があります。

上り坂は想像以上に長く、見上げた先が頂かと思えば、さらに坂が続いている。そんな感覚が何度も繰り返されます。数時間歩き続けた疲れが、じわじわと体にのしかかってきます。

いつの間にか道は下りに転じ、木々の間から芦ノ湖の水面がのぞき始めます。ようやく峠越えを果たした実感が湧いてくる瞬間です。
ゴールは芦ノ湖と箱根神社 達成感あふれる絶景

道路をまたぐ木橋を渡り、杉林に包まれた道を進むと、やがて車道に合流します。歩道のない区間が続くため、車に注意しながら足を進めていくと、前方に鮮やかな朱塗りの鳥居が見えてきます。箱根神社の一の鳥居です。

鳥居をくぐるとすぐに芦ノ湖の湖畔に出ます。目の前には土産物店や飲食店、遊覧船乗り場が並ぶ賑わいの風景が広がり、湖面には穏やかな光が広がります。歩き終えた体をやさしく迎えてくれるような空間です。
箱根旧街道へのアクセスは?起点・終点と交通のポイント

【出発地点:小田原駅】
東京駅から東海道新幹線「こだま」で約35分、またはJR東海道本線で約1時間30分。新宿駅からは小田急ロマンスカーで約1時間20分で到着します。
【到着地点:元箱根(芦ノ湖・箱根神社付近)】
元箱根港から箱根登山バスで箱根湯本駅まで約30分、そこから箱根登山鉄道に乗り換え、小田原駅へは約15分です。
※今回のハイキングルートは一方通行が基本です。出発と到着地点が異なるため、公共交通機関を利用した移動がおすすめです。
箱根旧街道ハイキングに関するよくある質問(FAQ)

Q1. 箱根旧街道は初心者でも歩けますか?
A. 急坂や石畳が続く区間もありますが、畑宿から芦ノ湖までの約2時間半のコースなら比較的歩きやすく、初心者の方にもおすすめです。
Q2. 所要時間はどのくらい?
A. 小田原宿から芦ノ湖までは約7時間。畑宿からの短縮コースなら約2時間半で歩けます。
Q3. どんな装備が必要ですか?
A. 滑りやすい石畳が多いため、トレッキングシューズがあると安心です。天気の急変に備えてレインウェア、適宜水分や軽食もお忘れなく。
Q4. トイレや休憩場所はありますか?
A. トイレは箱根湯本・畑宿・甘酒茶屋周辺に設置されています。飲食は「鈴廣かまぼこの里」や「甘酒茶屋」で休憩できますよ。
Q5. ベストシーズンはいつですか?
A. 気候が安定している春から秋にかけてが快適です。新緑の5月や紅葉が美しい11月頃が特におすすめです。
箱根旧街道を歩いて感じる魅力とは?

箱根旧街道は、石畳を踏みしめながら峠を越えたり、寄木細工の工房が並ぶ集落を訪ねたりと、歴史と自然が調和した道です。全長は約16.5km、所要時間は7時間ほど。
少し長めのコースですが、甘酒茶屋や畑宿など立ち寄りどころも多く、景色や文化を楽しみながら歩けるのが魅力。観光と登山の間を楽しみたい人に、ちょうどいいルートです。
都会の喧騒を離れ、静かな山道と歴史の趣に包まれながら、自分のペースで歩ける。そんな時間を求めている人にこそ歩いてほしい道です。
テキスト・写真:加藤きりこ(特記以外)
本記事は、以下の2記事を再編集・統合したものです。構成の再編および一部加筆修正を行っています。
- ・箱根は坂と階段の連続!東海道五十三次ちょこっと半日ハイキング【vol.01 小田原宿~箱根宿:前編】
- ・「どんぐりの涙」を流しながら芦ノ湖へ!東海道五十三次ちょこっと半日ハイキング【vol.02 小田原宿~箱根宿:後編】

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