絶景を求めて歩く詩歩さんの登山術 撮影と装備のこだわりとは

SNS総フォロワー数100万人超、ベストセラー『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』シリーズの著者として知られる絶景プロデューサー・詩歩さん。
撮影のために登山を始めたのかと思いきや、実は登山のほうが先でした。
その後、絶景写真の撮影で自然の中へ足を運ぶ体験を重ねてきた詩歩さんに、これまでの山の思い出や装備の工夫、そして“撮影のこだわりまで伺いました。
初登山が縦走だった、19歳の夏
詩歩さんが初めて山に登ったのは19歳。挑戦したのは、南アルプスの赤岳から横岳、硫黄岳へと抜ける縦走ルートでした。
「運動は得意だったので、いけると思っていきなり縦走しました。誘ってくれた人には『高尾山とかで練習してからでも…』って心配されたんですが、『たぶん大丈夫』と思って。」
初登山で泊まったのは、赤岳の山頂から30分ほど下ったところにある「赤岳頂上山荘」。翌朝見えたのは、富士山と雲海、そして御来光。
「写真はまだあまり撮っていなかった頃だったので残っていないんですが、あの光景はいまでも目に焼きついています。登山って、登らないと見られない景色があるんだなって、心から思いました。」
基本的に、詩歩さんは山にひとりで登ることはないと言います。
「山ってやっぱり危ないなと思っていて。いまでも、行きたい場所が見つかったら、まず友達に声をかけたり、一緒に行く人を誘ってから登っています。」
絶景に出会うために欠かせない、詩歩さんの登山装備
登山を重ねるなかで、詩歩さんには定番アイテムがいくつかあります。どれも実用的で、自分らしく快適に登るための工夫が感じられるものでした。
山に行く際、詩歩さんが必ず持っていくのは、撮影機材に加えて、雨具、防寒着、おやつ、小銭。見た目よりも実用性重視のラインナップです。
「山は天気がすぐに変わるので、レインウェアと防寒着はマスト。あと、疲労回復用の行動食として、おやつも欠かせません。」
甘い系・しょっぱい系・非常用と、詩歩さんの“おやつ三種の神器”はいつも決まっているそうです。
「チョコ系は『ベイク(森永製菓)』。山の上って直射日光を浴び続けるから、普通のチョコはすぐ溶けちゃうんですけど、ベイクは絶対に溶けないんですよ。しょっぱい系は『男梅(ノーベル)』シリーズの中から、キャンディーやグミ、ソフトキャンディのどれかを気分で選びます。クエン酸が入っていて疲労回復にもいい気がしています。」
非常時の備えとして、コンビニでも入手できるスティックタイプの羊羹も携帯。小さくて軽量、いざというときにすぐエネルギーを補給できる安心感が魅力なのだとか。
「小銭も意外と大事です。山小屋でお手洗いを借りるとき、協力金として必要になることが多いので、100円玉や10円玉を少し多めに用意しています。」
昼と夜とで美しさが一変する涸沢カールの魅力

昼間の涸沢カール。紅葉の時期は黄金色に染まる絶景が広がる
数ある山の絶景のなかでも、詩歩さんがイチオシだと語るのが、長野県松本市に位置する北アルプス・涸沢カール。氷河によって削られた“カール地形”で、時間帯ごとにまったく異なる表情を見せてくれる特別な場所です。
「北アルプスにはいくつかカールがありますが、中でも涸沢は本当に特別。地形の雄大さも紅葉の美しさも圧巻です。」
詩歩さんが訪れたのは、紅葉の最盛期。昼間は黄金色に染まった山肌がまぶしいほど。
「でも、私が一番楽しみにしていたのは“夜”の景色でした。」

夜の涸沢カール。宝石のようなテントの灯り
紅葉シーズンは多くの登山者がテント泊を楽しむため、夜になると色とりどりのテントに灯りが光り、まるで宝石をちりばめたような幻想的な光景に。
「このときは私もテント泊をしたんですけど、実は自分のテントじゃなくて、友達のテントにお邪魔してました。」
夜景を写真に収めるためには、三脚を持って登る必要もあり、装備はかなり重たかったとのこと。
「それに加えてテントまで持っていくのは大変だったので、友達に甘えてしまいました。」
使い勝手の良さを意識したカメラ装備

撮影機材一式。手前の小さなアイテムがキャプチャー
登山中の撮影では、「持ち運びやすさ」と「すぐに構えられること」が重要だと詩歩さんは言います。ここでは詩歩さんならではの撮影装備を紹介してもらいました。
「普段使っているのは、ソニーのα7CII。旅先でも使える軽さとコンパクトさが魅力です。ハイエンドモデルの中では世界最小・最軽量と言われていて、女性でも扱いやすいんです。」
レンズはズーム(28-200mm)と広角(17-28mm)の2本を使い分け。機材の総重量を抑えるため、フィルター類は持って行きません。
そして、山に行く際に欠かせないアイテムが「キャプチャー」と呼ばれるカメラホルダー。
「リュックのベルト部分にカメラを固定できるアイテムなんです。首から下げてると岩にぶつけてレンズを壊しちゃうこともあるので、これは本当に便利。撮りたい瞬間にもすぐ対応できます。」
登山中にスマートフォンで撮影する人にも、落下防止のストラップは必須だと強調します。
「スマホって一度落としたら、もう拾えない場所が多いので…。ストラップをつけるだけで安心感が違います。」
写真に映える登山ファッション、その理由とは?

栗駒山の紅葉。山だからこその抜け感のある絶景
写真に写ることを前提にした登山では、ウェアの色選びにもひと工夫。詩歩さん流の「映える服」選びの基準があるそうです。
「私はよく、自分自身も風景の中に小さく写り込む構図で写真を撮るんです。そうすると、景色のスケール感が伝わるんですよね。でもアースカラーのウェアだと、景色に紛れてしまって存在感がなくなることもあって。」
そのため、あえてカラフルなウェアを選ぶようにしているといいます。
たとえば、紅葉の名所として知られる栗駒山で撮影した写真にも、自身の鮮やかな装いが印象的に映っています。
「自分の背の高さくらいの紅葉の木の中を登っていく登山道が本当に美しくて。あの日は曇り空で、『見頃を狙ったのに…』と残念に思っていたんですけど、最後の最後にぱっと視界が開けて。振り返ったら、雲海と紅葉がいっせいに広がっていて、“あ、曇っていたんじゃなくて、今まで雲の中にいたんだ”って気づいたんです。」
栗駒山は、宮城・岩手・秋田の県境にまたがる山で、詩歩さんは宮城県側の登山口から登ったそうです。往復およそ4時間程度で歩けるコースは整備されており、初心者でも紅葉の絶景を楽しめるスポットです。
「山以外では見上げる紅葉が、山の上からだと見下ろす紅葉に変わるんです。赤や黄、オレンジが重なるパッチワークのような景色は、また違った雰囲気で楽しめますよ。」
登山も撮影も「Slow is fast,Fast is slow」
登山中のペースも、撮影のタイミングも、「急がない」ことが大切だと詩歩さんは言います。
「そもそも、撮影しながら登ると普通の登山より時間がかかるんです。山頂でも、天気が悪ければずっと待つこともあります。」
天候の回復を待つ「天気待ち」はもちろん、人の流れが切れるのを狙う「人待ち」もあります。
「栗駒山では、友達に写真を撮ってもらうタイミングを探して、人が途切れる瞬間をずっと待っていました。理想的な写真を撮れるのって、一瞬だったりするんですよね。」
そんな“待ち時間”をどう過ごすかも、詩歩さんならではの工夫があります。
「私はわりと待てるタイプで、4時間くらいなら平気で雲が流れるのを眺めていたりします。本を持っていくこともあるし、スマホにダウンロードしておいた漫画を読んでいることも多いです。意外と、山に関する漫画は読まないですね。」
焦らないほうがいいのは、トレッキング中も一緒かもしれません。最近、ブータンのトレッキングで出会った言葉が、特に印象に残っているといいます。
「ガイドさんに教えてもらった“Slow is fast, Fast is slow”という言葉があって。“ゆっくり歩き続けた人のほうが、結果的に早く着く”っていう意味なんです。焦らず、小さく一歩ずつ進むのが一番なんだって実感しました。」
自然は美しいが油断ならない。山でのヒヤリ体験

マヤグスクの滝。ハブやヒルのリスクを越えた先に広がる景色
白馬八方尾根を訪れたとき、予想外の寒さに見舞われた経験が、詩歩さんにとって“自然の怖さ”を感じる体験のひとつだったといいます。
「リフトで簡単にアクセスできるし、少し歩けば絶景が見られる八方池。季節も真夏だったので軽装で行ってしまったんです。そしたら……想像以上に寒くて。防寒着を持ってこなかったことを本当に後悔しました。」
気軽に行けるからこそ、しっかりした準備の大切さを改めて実感したと言います。
そして、自然の厳しさは山だけに限りません。沖縄・西表島の「マヤグスクの滝」を訪れた際には、思わぬ出会いもありました。
「ジャングルの中を3〜4時間歩いて、ようやく滝にたどり着いたんですけど……腰を下ろした石の下にハブがいて、全身に鳥肌が立ちました。ハブ酒の中でしか見たことがなかったので、リアルで鳥肌が立ちました。」
さらに、足元にも別の危険が迫っていました。
「渓流の中をじゃぶじゃぶ歩いていたら、ヒルが靴の中に入ってくるんです。こまめに脱いでは、はらって…の繰り返し。私は大騒ぎしてたんですけど、周りの人たちは『あ、噛まれてたわ〜』くらいの反応で、たしかに大きな害はないんですけど……。周りの人たちのリアクションにびっくりしました。」
これから登ってみたいのは? 詩歩さんの“これから”の山計画
これまで多くの絶景と出会ってきた詩歩さんですが、まだ見ぬ景色に心を躍らせる気持ちは変わりません。最後に、今後チャレンジしてみたい山について伺いました。
「まず行ってみたいのが、長崎県の雲仙岳。まだ雪山には登ったことがないんですけど、雲仙岳なら冬でもロープウェイで上のほうまで行けるので、比較的チャレンジしやすいかなと。」
雲仙岳では、冬になると「花ぼうろ」と呼ばれる霧氷が見られ、辺り一面が幻想的な白銀の世界となります。そして、再チャレンジを心に決めているのが、日本最高峰・富士山。
「21歳のときに登ったんですけど……若さゆえに一度も止まらず、山頂まで一気に登ってしまって。結果、高山病になって、山頂では頭も痛いし、雨は降るし、『私、何しに来たんだろう』って、思わず苦笑いしてしまいました。」
これからも、無理をせず、でも妥協もせずに、詩歩さんは絶景を目指して山を歩き続けていくのでしょう。

詩歩(しほ)
絶景プロデューサー/『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』著者
静岡県出身。シリーズ累計66万部を突破したベストセラー『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』を企画・執筆し、SNS総フォロワー数は100万人超。絶景ブームの火付け役として、ユーキャン新語・流行語大賞にもノミネートされた。現在はフリーランスとして、旅行商品のプロデュースや地域振興アドバイザーなどを幅広く手がける。地元である静岡県と浜松市、また愛媛県の観光大使も務める。
・Instagram:@shiho_zekkei
・YouTube:詩歩の絶景vlog
・公式サイト:shiho and…
TEXT:姫乃たま
PHOTO:詩歩

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