南沢山・横川山の雪山登山ガイド 霧氷とスノーモンスターの絶景ルート

「南沢山(みなみさわやま、標高1,564m)」と「横川山(よこかわやま、標高1,620m)」は、長野県阿智村にそびえる静かな山々です。中央アルプスや南アルプス、さらには御嶽山や恵那山まで望む展望が魅力で、観光地化された山と比べると訪れる人も少なく、落ち着いた山歩きを楽しめます。

ところが冬になると、この山域は多くの登山者で賑わいます。その理由は、木々の枝に氷が結晶する「霧氷(むひょう)」が作り出す幻想的な光景に出会えるからです。真っ白な森と稜線が織りなす景色は、雪山登山ならではの特別な体験といえるでしょう。

今回は、南沢山から横川山へと歩く雪山登山ルートをご紹介します。

※霧氷:空気中の水分が過度な冷却で、木々の枝に氷結する現象

2025年9月9日 更新

南沢山と横川山の魅力 冬に訪れたい雪山登山の絶景


霧氷の木々に山肌が覆われる白銀の絶景

登山口のふるさと村自然園から南沢山までは、樹林帯を約3.5kmゆっくり登っていく穏やかなルートです。夏は静かな森歩きが続きますが、冬になると景色は一変。枝先に氷の結晶が広がる霧氷が現れ、道の両側を幻想的に彩ります。

さらに南沢山に近づくと、雪と氷に覆われた木々が巨大な姿を見せる「スノーモンスター」が点在。横川山へと続く稜線では、まるで隔絶された雪の世界に足を踏み入れたかのような特別な体験が広がります。

南沢山登山口へのアクセス ふるさと村自然園と駐車場情報


阿智セブンサミットの看板が登山口の目印

南沢山・横川山登山の拠点は「ふるさと村自然園」です。長野県阿智村に位置し、中央自動車道・園原ICからは車で約20分、飯田山本ICからも約25分とアクセス良好。登山口のすぐそばには登山者用駐車場が整備されていますが、冬季は人気が高く、早い時間に満車になることもあります。


静かに山の絶景を独り占めできる平日の利用もおすすめ

この駐車場へ向かう道は急勾配のため、冬季はスタッドレスタイヤの装着が必須です。駐車場が満車の場合は、手前の「ふるさと村自然園」の駐車場を利用しましょう。平日を選べば混雑も避けやすく、落ち着いて登山をスタートできます。車を停めたら、アイゼンやゲイターなど雪山装備を整え、いよいよ南沢山登山の始まりです。

南沢山登山ルートの歩き方と標準コースタイム


静寂に包まれて始まる冬山ならではの情緒を味わう

南沢山から横川山へと歩くコースは、雪山ならではの霧氷や稜線歩きを楽しめる魅力的なルートです。道は整備されており急登も少ないため、雪山装備を整えていれば初心者でも歩きやすいのが特徴。静かな森を抜けて展望の開ける山頂へ至る過程は、雪山ならではの変化に富んだ山歩きを味わえます。

標準コースタイム
南沢山登山口→(約1時間20分)→中間点→(約45分)→南沢山山頂→(約35分)→横川山山頂

南沢山登山口から中間点へ 静かな冬の森歩きを楽しむ


木漏れ日がスポットライトのように降り注ぐ

最初は少し急な区間がありますが、10分ほどで整備の行き届いた登山道が続き、穏やかな樹林帯の道に入ります。危険箇所も少なく安心して歩けるルートで、途中の木々の隙間からは中央アルプスの稜線が顔を覗かせ、少しずつ標高を稼いでいる実感を味わえるでしょう。

南沢山登山ルート前半は樹林帯が中心。一見単調に思える区間ですが、冬は景色が一変し、ふかふかとした雪の感触や張りつめた静けさが漂います。木漏れ日が差し込むと景色は刻々と表情を変え、非日常感が広がります。


見上げれば、真っ青な空に映える霧氷に見惚れる

登山開始からおよそ1時間20分で中間点に到達。ここを過ぎると霧氷が枝に付き始め、やがて白銀の世界が眼前に広がります。真っ青な空を背景に輝く霧氷は、思わず足を止めて見惚れる美しさです。

中間点を越えて南沢山山頂へ 霧氷とスノーモンスターの絶景


一回だけ現れる急坂を下ると、なだらかな道が続く

中間点を過ぎると、一度だけ急な下りがありますが、それを抜けると再び緩やかな傾斜となり、林道のような穏やかな道が続きます。ここから南沢山山頂までは大きな急登もなく、安心して歩ける区間です。


思わず息を呑むような霧氷の絶景に感動

冬の霧氷シーズンには、木々の枝が白く輝き、まるで雪の花が咲いたかのような幻想的な景色が広がります。澄んだ青空とのコントラストは、思わず息を呑む美しさ。


厳しい気象条件が作り上げるスノーモンスター

登山開始から約2時間で南沢山山頂に到着。山頂は広々としてベンチもあり、休憩に最適です。ここから横川山へ続く稜線には、スノーモンスターと呼ばれる巨大な樹氷が立ち並び、冬山ならではの迫力ある光景を楽しめます。

南沢山から横川山へ スノーモンスターの稜線歩き


スノーモンスターは、エビの尻尾と呼ばれることも

南沢山から横川山へと続く稜線歩きは、この登山のハイライトです。そこはまさに“スノーモンスターの回廊”。無数の霧氷が木々を白く覆い、静けさに包まれた雪山の世界が広がります。その幻想的な光景を求めて、遠方から訪れる登山者も少なくありません。


スノーモンスターの回廊を歩き、横川山山頂へ

ただし登山道を外れると深雪に踏み抜く危険があるため、必ずトレース(先行者の足跡)をなぞって進みましょう。霧氷に包まれた道を抜けると、一度下りを経て横川山へ続く急登が立ちはだかります。最後の急登区間ではアイゼンが必須です。


振り返ると、白銀に輝く中央アルプスの山並みを望む

振り返れば、これまで歩んできた霧氷の稜線の先に、中央アルプスの白銀の峰々が連なり、その壮麗な眺めに息を呑むはずです。さらに霧氷の隙間からは南アルプスの雄大な山並みも望め、絶景が続くこの道のりは疲労を忘れさせてくれるほど。南沢山からおよそ35分で横川山山頂に辿り着きます。

横川山山頂に到着 中央アルプスと南アルプスの大展望


木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ、標高2,956m)を中心とする中央アルプスの山並みを一望

標高1,620mの横川山山頂は、広々とした開放感あふれる展望ポイントです。目の前には雄大な南アルプスの稜線が連なり、振り返れば中央アルプスが屏風のようにそびえています。とりわけ冬は空気が澄み渡り、山々の輪郭がくっきりと浮かび上がり、横川山山頂から望む景色は心を奪われる美しさです。


天気が良ければ、南アルプスの峰々が視界いっぱいに広がる

山腹を彩る霧氷の向こうには、南アルプスが壁のように連なり、南側には白銀をまとった恵那山が母なる山のように穏やかにそびえています。冬は厳しい風にさらされ、長居が難しいこともありますが、その分、心に刻まれるような絶景を堪能できるはずです。

横川山からさらに進む富士見台高原への縦走ルート


恵那山(えなさん、標高2,191m)を正面に望む、富士見台高原の山頂

横川山の山頂からさらに足を延ばすと、「富士見台高原(標高1,739m)」へ縦走することができます。ここから先は往復で約6kmが加わり、アップダウンも多く、中級者向けの挑戦的なルートです。雪の吹き溜まりも現れるため、スノーシューやワカンなど本格的な雪山装備を整えて臨みましょう。


寒さが厳しい雪山の中でほっと一息つける、御坂避難小屋

その分、稜線上では圧巻のスノーモンスターや、澄んだ青空とカラマツの霧氷が織りなす美しいコントラストなど、この区間ならではの光景が待っています。途中には御坂(みさか)避難小屋もあり、防寒や休憩の拠点として活用できます。


登山中級者なら一度は歩いてもらいたい南沢山〜富士見台高原

ふるさと村自然園から南沢山を経て、往復約16.5kmの行程となるため、中級者以上向けのルートです。挑戦する際は、早朝からの行動計画を立て、時間と装備に余裕をもって臨みましょう。

標準コースタイム
南沢山山頂→(約1時間30分)→富士見台高原

下山後に立ち寄りたい昼神温泉と阿智村の観光


日帰りでも1泊2日でも利用したい、山麓の名湯・昼神温泉

登山を終えたあとは、阿智村の誇る名湯「昼神温泉(ひるがみおんせん)」でゆっくり疲れを癒しましょう。アルカリ性単純硫黄泉の泉質は肌をなめらかにし、「美人の湯」としても親しまれています。大浴場や露天風呂で心地よい湯に浸かれば、登山の疲れがじんわりと和らいでいきます。


信州だからこそ味わえる、風味豊かなお蕎麦は格別

温泉街には宿泊施設も点在しており、滞在型の登山旅にもぴったり。周辺では信州そばをはじめ、川魚料理や地元野菜を使った郷土料理など、山里ならではの味覚も楽しめます。温泉と合わせて訪れれば、登山の余韻をさらに豊かに彩ってくれるでしょう。


日本屈指の星空鑑賞が楽しめる阿智村

また、阿智村は「日本一の星空」としても知られ、星空観賞イベントも人気。澄んだ夜空に広がる満天の星を眺めれば、登山後の時間が一層特別なひとときに変わります。温泉・グルメ・星空観賞を組み合わせることで、南沢山・横川山登山は忘れられない山旅となるはずです。

南沢山登山で白銀の稜線と霧氷の森を楽しむ


霧氷と日本アルプスの共演に感動

南沢山と横川山は、冬ならではの雪山歩きを満喫できる魅力的な山域です。登山道では木々に咲いた霧氷や迫力あるスノーモンスターが出迎え、稜線に立てば南アルプスや中央アルプスの山並みが澄んだ空に浮かび上がります。隔絶された白銀の稜線を歩くひとときは、まさに冬だけの特別な体験といえるでしょう。


実は昼神温泉の隣にある、月川温泉もおすすめ

下山後は阿智村の名湯「昼神温泉」で体を温めるのがおすすめ。雪景色を眺めながら湯に浸かれば、歩き疲れた体もやさしく癒されます。隣接する「月川温泉」も落ち着いた風情があり、登山の締めくくりに立ち寄るのにぴったりです。

雪山は美しさと同時に厳しさもあるため、天候や積雪状況に応じた装備を整え、必ず最新情報を確認してから出かけましょう。

1993年生まれ、愛知県豊田市出身。同志社大学文学部を卒業後、商社やメーカーで営業職を経験。2019年より複業でトラベルライターとしての活動を始め、旅の魅力を伝える仕事がライフワークになる。2021年には本業も旅行業界へ本格転身し、国内OTAにて宿泊施設の集客支援に従事。現在は旅行系ベンチャー企業でメディアマネージャーを務める。これまでに執筆した記事は2,000本以上。地方の自然や暮らしをテーマにした発信を続けながら、「旅を通じて人生が豊かになるきっかけ」を届けたいと考えている。登山、自転車旅、温泉巡り、離島旅が趣味で、毎年の北海道旅行を家族の恒例行事にしている。 notehttps://note.com/yuhei_tonosho
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