登山中の水分補給、なぜそれほど大切?脱水を防ぐために知っておきたい基本知識

登山では、気づかないうちに大量の汗をかいています。特に標高が高く、気温や日差しが強い日には、想像以上に体の中から水分が失われていきます。にもかかわらず、「喉が渇いた」と感じたときにはすでに軽い脱水状態になっていることも少なくありません。
体内の水分が不足すると、足がつる、頭が痛くなる、全身がだるくなるといった体調不良を引き起こし、登山の楽しさを損なうだけでなく、熱中症や意識障害など重大なリスクにつながるおそれもあります。安全に登山を楽しむためには、行動中のこまめな水分補給が欠かせません。
この記事では、登山中の水分補給について、必要な水の量や飲むタイミング、ミネラル補給の重要性、水場の確認方法などを詳しくご紹介します。登山初心者の方でもすぐに実践できる内容なので、ぜひ次の山行の参考にしてください。
脱水症状や熱中症を防ぐために水分補給を意識しよう

登山中は長時間にわたり体を動かし続けるため、大量の汗が出て、知らず知らずのうちに体内の水分が減少していきます。特に暑い時期や標高の高い山では、気温の変化や運動量の影響もあり、体からの水分喪失が激しくなります。
喉が渇いているのに水を飲まずに歩き続けてしまうと、足がつったり、身体がだるくなったり、頭が痛くなるといった症状が現れはじめます。これらはすべて脱水症状の初期段階であり、さらに進行すると熱中症や意識障害といった重大な事態につながる可能性があります。
こうしたトラブルを防ぐには、「喉が渇く前に飲む」という意識が重要です。水分補給は休憩時だけでなく、歩行中にもこまめに行うようにしましょう。
水分だけでなく塩分やミネラルも忘れずに

登山中に失われるのは水分だけではありません。汗とともに、ナトリウム(塩分)やカリウム、マグネシウムといったミネラル成分も体外に出てしまいます。水だけを補給していると体液のバランスが崩れ、「低ナトリウム血症」などのリスクを高めることにもつながります。
水分と一緒に塩分や糖分を含むものを摂取することで、体の吸収効率が良くなり、脱水のリスクを抑えることができます。スポーツドリンクや経口補水液はそのまま飲めて手軽ですし、行動食として塩飴や塩タブレット、小さな菓子パンやゼリーなどを用意しておくのもおすすめです。
ミネラルやエネルギー補給を意識した飲食は、登山中のパフォーマンス維持にもつながるため、休憩中には積極的に取り入れましょう。
登山中に必要な水分量の目安を知っておこう

登山で必要となる水分量は、体格や行動時間によって異なります。一般的には、以下の計算式が目安になります。
5 × 体重(kg) × 行動時間(時間)= 必要な水分量(ml)
たとえば、体重50kgの人が6時間歩く場合は「5×50×6=1500ml」、つまり1.5L程度の水が必要とされます。
ただし、これはあくまでも目安であり、実際の必要量は天候や標高差、個人の発汗量によって変わります。気温が高い日や、急登が続くコースを選ぶ場合は、余裕を持って多めに持参するようにしましょう。また、水場の有無も含めて計画を立てることが大切です。
水場の場所と状態は地図で必ず確認を

登山ルートによっては、途中に水場があるケースもあります。こうした水場の場所は、登山地図や登山アプリで事前に確認することができます。『山と高原地図』などには水場のマークが記載されていますが、季節によっては水が枯れていたり、飲用に適さない場合もあるため、現地の情報も確認しておくと安心です。
また、沢の水や湧き水は一見きれいに見えても、水質検査が行われていないことが多いため、そのまま飲むのは避けましょう。携帯用の浄水器やフィルターを使用するか、煮沸してから飲むなど、安全面を考慮した対応が必要です。
水分補給はタイミングが重要

登山中は、喉の渇きを感じてから水を飲むのではなく、定期的に少量ずつ補給するのが理想です。目安としては、30分から1時間に1回程度、100〜200mlずつ飲むのが基本。特に夏場や標高の高い場所では、汗を多くかくため、15分に1回のペースで飲むことも検討しましょう。
登山中は休憩のタイミングを見つけにくいこともあるため、歩きながらでもすぐに水が飲めるよう、ハイドレーションシステムを活用したり、ボトルをザックの取り出しやすい場所に入れておくと便利です。
体が疲れてからではなく、こまめな補給を意識することで、体調の安定にもつながります。
登山の水分補給に関するFAQ

Q1. 登山中に水を飲みすぎると逆に良くないって本当ですか?
A1. 一度に大量の水を飲むと、胃に負担がかかったり、体内の塩分濃度が薄まって「低ナトリウム血症」になるリスクがあります。登山では喉が渇いたと感じる前に、100〜200ml程度をこまめに補給するのが基本です。飲みすぎそのものよりも、「一気飲み」や「水だけを補給する」ことが問題になるケースが多いため、塩分や糖分の補給も意識しましょう。
Q2. 水筒とペットボトル、登山にはどちらが適していますか?
A2. 両方にメリットがあります。保温・保冷機能のある水筒(ステンレスボトルなど)は、寒暖差のある季節に便利です。一方、ペットボトルは軽くて扱いやすく、複数本に分けることで管理しやすいという利点があります。夏場は凍らせて持参すると保冷効果が長続きします。必要に応じて、歩きながら水が飲めるハイドレーションシステムも併用すると補給のしやすさが高まります。
Q3. 水分補給におすすめの飲み物は何ですか?
A3. 基本的には水で十分ですが、スポーツドリンクや経口補水液を活用するのもおすすめです。特に気温が高い日や長時間行動する場合は、電解質(ナトリウム・カリウムなど)を含む飲料が体内の水分吸収を助けます。手作りの補水液(砂糖と塩を加えた水)を用意する人もいますが、初心者は市販のものを活用するほうが手軽で安心です。
Q4. 冬山でも水分補給は必要ですか?
A4. はい、冬山でも水分補給は非常に重要です。気温が低いと喉の渇きを感じにくくなりますが、呼吸や発汗によって水分は常に失われています。水が凍ってしまうこともあるため、保温ボトルに温かい飲み物を入れておくのが効果的です。体を温めるだけでなく、低体温症の予防にもつながります。
Q5. コース上の水場はどのように確認できますか?
A5. 登山用の紙地図(たとえば『山と高原地図』シリーズ)や登山アプリには、水場の位置がアイコンなどで示されています。ただし、掲載されていても季節や気象によって枯れていることもあるため、最新の登山レポートや現地の掲示板で情報を確認するのが安心です。基本的には、水場での補給に頼らず、必要な量をあらかじめ持参するのが安全策です。
Q6. 登山に水を2リットル持って行くのは重すぎませんか?持ち運びの工夫はありますか?
A6. 2リットルの水は約2kgあり、ザックの重量としては決して軽くありません。そのため、500mlのペットボトルを複数に分けて持つと、重さを分散しやすく取り出しやすいです。
水場での補給が可能なルートなら、最初は少なめに持ち、途中で補充する方法もあります(※ただし枯れている可能性には注意)。ハイドレーションパックを使えば、体の近くで効率よく持ち運ぶことができ、疲労感も抑えられます。
Q7. 短時間の登山でも水分補給は必要ですか?
A7. はい、1〜2時間程度の軽い登山やハイキングでも水分補給は必要です。移動や日差しによる発汗、標高の影響で意外と水分は失われています。
特に暑い日や日陰の少ないコースでは、体温が上昇しやすく脱水しやすいため、こまめな補給で体調を保つことが重要です。最低でも500mlの飲み物は用意し、夏場であれば1L程度を目安にすると安心です。
Q8. ハイドレーションって本当に便利ですか?デメリットはないのでしょうか?
A8. ハイドレーションは、歩きながらでもチューブから水が飲めるため、こまめに補給する習慣をつけやすい便利なアイテムです。特に夏山や縦走登山では多くの登山者に利用されています。
ただし、中身の残量が見えにくいことや、冬はチューブが凍結するリスク、清掃の手間といった注意点もあります。初めて使用する場合は、ペットボトルや水筒と併用し、自分に合うかどうかを試すのがおすすめです。
Q9. 子どもと一緒に登山する場合、水分補給で気をつけることはありますか?
A9. 子どもは体が小さく、大人よりも早く脱水状態に陥りやすいため、よりこまめな水分補給が必要です。喉が渇く前に飲む習慣を身につけさせ、楽しく飲める工夫(甘めのドリンクやストロー付きの容器など)をすると効果的です。
暑い時期には10〜15分おきに少しずつ水分をとるよう声をかけるのが理想です。
Q10. 経口補水液とスポーツドリンクの違いは?どちらを選ぶべきですか?
A10. 経口補水液(例:OS-1)は、脱水症状や熱中症対策を想定してつくられており、塩分や電解質が多く含まれています。一方でスポーツドリンクは、運動中の水分補給とエネルギー補給にバランスよく対応した飲料です。
ふだんの登山ではスポーツドリンクで十分ですが、万が一の体調不良に備えて、経口補水液を1本だけ携帯しておくと安心です。
登山の基礎を学べる心強い一冊
登山では、こまめな水分補給が欠かせません。とはいえ、「どれくらいの水が必要?」「飲むタイミングは?」と戸惑う方も多いのではないでしょうか。そうした疑問にやさしく答えてくれるのが、『山と高原地図ではじめる 山登り入門ガイド』です。
本書では、水分補給の基本をはじめ、登山に必要な装備や歩き方のコツ、天気への備え、地図の読み方など、知っておきたい基礎知識を写真や図解でわかりやすく解説。実践だけでは身につきにくい登山の「考え方」が、自然と理解できる内容になっています。
登山のリスクを減らし、安全に楽しむための知識も備えておきたい。そんな方におすすめの一冊です。
水分補給は登山計画の大切な一部

登山中の水分補給は、単なるのどの渇きを潤すものではなく、体調を守るための重要な準備のひとつです。水分が不足すると、足のつりや脱力感、熱中症といったトラブルを引き起こし、行動が困難になることもあります。だからこそ、水分の必要量をあらかじめ把握し、こまめに飲むこと、そして塩分やミネラルの補給も意識して行うことが大切です。
また、水場の位置や水質の安全性も事前に確認し、万が一に備えて予備の水や浄水装備を持っておくことも安心につながります。しっかりとした水分補給の準備が、登山の充実度を左右します。次の山行では、「いつ、どれくらい、どのように水を補給するか」も計画に組み込んで、安全で快適な登山を楽しんでください。
記事中イラスト:ホシノアンリ
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