クマの痕跡に注視せよ 「これ」に気づいたら要注意【知ることは、守ることVol.2】

警戒心の強いクマは、基本的にはなかなか人間の前に姿を現さないものですが、実は私たちの気づかないところで、多くの痕跡(フィールドサイン)を残しています。

山や林で見つかる具体的な痕跡は、すぐ近くにクマが潜んでいるかもしれないという危険のサイン。
いざというときに自分の命を守るため、クマが残す代表的なサインと、遭遇を回避するための正しい行動を、一緒に確認していきましょう。

2026年6月15日 更新

「これ」に気づいたら要注意①フン

クマのフンは、人間の握りこぶし以上の大きさで、まとまって落ちているのが大きな特徴です。例えば、本州に多く生息するツキノワグマの場合、フンの直径は10cm程度、重さは500g程度にも及びます。

また、クマの消化器官の仕組み上、フンは食べたものをそのまま、すりつぶしたような状態になります。そのため、匂いもいわゆる糞便臭というよりは、直前に食べた植物や果実などの匂いに近いという独特な特徴を持っています。

「これ」に気づいたら要注意②子グマ

かわいい子グマが1頭でいるように見えても、その近くには、まず間違いなく母グマが潜んでいます。
しかも、この時期の母グマは子どもを守るために極めて神経質(過敏)になっており、人間の存在に気づくと、我が身を顧みずためらいなく攻撃を仕掛けてくるため、非常にリスクが高く危険な状態です。

「子グマだから安心」ということは決してありませんので、見つけたら一刻も早く、静かにその場を立ち去りましょう。

「これ」に気づいたら要注意③足跡

クマのフィールドサイン(痕跡)として、最も代表的なものが「足跡」です。

クマの足跡は、雨上がりのぬかるみや、やわらかい土の上などであれば、以下のイラストのように「5本の指」「鋭いツメの跡」「大きな肉球」の形がくっきりと残るのが大きな特徴です。

「これ」に気づいたら要注意④木の傷跡

クマはドングリなどの木の実を食べるために木に登る習性があり、その際、木の幹に鋭いツメ痕を残すことが多くあります。

もし、人間の頭上よりも高い「高さ2m前後」の場所に、縦に鋭くえぐれたような傷が何本も平行に残っていれば、それはクマが登り降りしたときにつけた傷である可能性が非常に高いと言えます。

こうしたツメ痕は、その木がクマの通り道やエサ場になっている証拠です。傷が新しく、樹皮がまだ生々しく削れている場合は、ごく最近クマがそこを訪れたことを意味しますので、周囲の安全に最大限の注意を払ってください。

「これ」に気づいたら要注意⑤クマ剝ぎ

画像出典:岐阜県森林研究所「森林のたより2010年6月号掲載「樹皮剥ぎの見分け方」

「クマ剥ぎ」とは、主としてツキノワグマが、若葉や木の実がまだ少ない春先から初夏にかけての時期に行う行動のことです。クマはこの時期、木の内側に含まれる水分や養分を摂取するために、前足や口を上手に使って木の表皮をベリベリと剥ぎ取り、その中にある「形成層」と呼ばれる部分を鋭い前歯で削り取って食べます。

このように、樹皮が大きく剥がされて中の木肌がむき出しになった「クマ剥ぎ」の跡がある森林は、まさにクマの貴重なエサ場になっている証拠です。

もし山の中でこのような被害に遭った木を見かけたら、クマが今も近くで活動している可能性が非常に高いため、格段の警戒を持って速やかにそのエリアから離れるようにしてください。

「これ」に気づいたら要注意⑥クマ棚

画像出典:新潟県立浅草山麓エコ・ミュージアム ホームページ

ツキノワグマは、木に登って大好物の果実や木の実を食べることがあります。しかし、体重が重いため、細い枝の先までは移動することができません。

そこで、樹の上で実がたくさんついた枝を、自分の手元にぐいぐいとたぐり寄せて、実を口に運びます。その際、用が済んで折られた枝が、まるで鳥の巣のように樹の上に丸く積み重なって残ることがあります。これを、クマが残した独特な痕跡として「クマ棚(くまだな)」と呼んでいます。

頭上を見上げたときに、妙に不自然な枝の塊が木の上に残っているのを見つけたら、それはクマがそこで食事をした決定的な証拠です。周囲にまだクマが潜んでいる可能性もありますので、すぐに警戒を強めて行動してください。

おわりに

警戒心が強くめったに姿を見せないクマですが、私たちが歩く山や林の中には、彼らがそこにいることを示す数多くのサインが残されています。

こうしたフィールドサインは、クマからの「ここにいるよ」という無言のサイン。一つでもこうした痕跡を見つけたり、あるいは子グマの姿を遠目に見かけたりした場合は、決してそれ以上近づいてはいけません。

自然豊かな場所へ入る際は、足元や周囲の木々にしっかりと目を配り、クマの気配を察知したら「すぐに、落ち着いて、静かにその場を立ち去る」という基本を徹底してください。
正しい知識を持ってサインを読み解くことが、不意の遭遇を防ぎ、あなたの身を守る最大の防衛策となります。

なおこの記事で紹介した内容は、書籍『さまようクマ、変わる森 正しく怖がるための新しい教科書』に掲載している情報の一部をもとに再構成したものです。
クマとの向き合い方をより深く知りたい方は、ぜひ本書もあわせてご覧ください。

クマを「正しく怖がる」ために読みたい一冊

『さまようクマ、変わる森 正しく怖がるための新しい教科書』は、感情論や俗説に流されるのではなく、事実をもとにクマを「正しく怖がる」ための知識をまとめた一冊です。

連日のように報道されるクマの出没や人身被害のニュース。
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クマの活動が活発になるこれからの時期、自分や大切な人の身を守るための知識を深めたい方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

監修者プロフィール
小池 伸介(こいけ・しんすけ)
 1979年、名古屋市生まれ。東京農工大学大学院農学研究院教授。博士(農学)。専門は生態学。主な研究対象は、森林生態系における生物間相互作用、ツキノワグマの生物学など。東京都奥多摩、栃木県、群馬県、神奈川県などにおいてツキノワグマの生態や森林での生き物同士の関係を研究。NGO日本クマネットワーク代表。

商品概要
商品名   :『さまようクマ、変わる森 正しく怖がるための新しい教科書』
発売日   :2026年5月29日
定価    :2,200円(本体2,000円+税10%)
出版社   :株式会社 昭文社


画像:Amazon

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