スマートフォンの登山地図アプリを使っていても、登山用コンパスには役割があります。コンパスは地図と組み合わせて、方角や進む方向を確かめるための道具です。
スマートフォン・紙地図・コンパスは、どれか一つがあれば十分というものではありません。現在地の確認、ルート全体の把握、進む方向の確認と、それぞれ得意なことが異なるため、役割を理解して併用することが大切です。
コンパスというと難しそうに感じるかもしれませんが、初心者が最初からすべての技術を覚える必要はありません。この記事では、登山でコンパスが必要な理由、選び方、おすすめの6商品、そして最初に覚えたい2つの基本操作を紹介します。
目次
登山でコンパスが果たす役割とスマートフォンとの違い

登山用コンパスは、持っているだけで道迷いを防げる道具ではありません。まずは、コンパスが山で何をしてくれるのか、スマートフォンや紙地図とどう役割が違うのかを整理しておきましょう。
コンパスは地図と組み合わせて方角を確かめる道具
コンパスの針が示すのは北の方向です。それだけでは、目の前の分岐をどちらへ進めばよいかまでは分かりません。
地図と組み合わせることで、地図上で決めた進行方向を、実際の地形のどちらに当たるかに置き換えて確かめられるようになります。登山用コンパスは、この作業をしやすいように作られた道具です。
道を間違えやすい場所で進む方向を確認できる
警察庁が公表した令和7年の山岳遭難の概況では、遭難の態様で最も多いのが道迷いで、全体の約3割を占めています。
道を間違えやすいのは、登山道が分かれる分岐、尾根が枝分かれする地点、道の向きが大きく変わる場所などです。霧などで遠くの景色が見えないときも、周囲の地形から方向を判断しにくくなります。
こうした場所で地図を見ながらコンパスで方向を確かめれば、思い込みで進む前に一度立ち止まって判断できます。
スマートフォン・紙地図・コンパスの役割を分けて併用する
スマートフォンの登山地図アプリは、GPSを使って地図上に現在地を表示できる点が大きな強みです。方位を表示する機能を備えた端末やアプリもあります。
一方、紙地図は広い範囲を一度に見渡しやすく、ルート全体の位置関係や周囲の地形を把握するのに向いています。コンパスは電池を使わずに、紙地図と組み合わせて方角や進行方向を確かめられます。
スマートフォンは電池切れや故障で使えなくなることもあります。「スマートフォンがあれば不要」「コンパスがあれば十分」と考えず、それぞれの役割を理解して併用しましょう。
初心者が選びたい登山用コンパスの条件

画像:写真AC
登山用品店や通販サイトには、形や機能の異なるコンパスが並んでいます。ここでは、初めての1個を選ぶときに確認したいポイントを、購入時に判断しやすい順に紹介します。
地図の上で使えるベースプレート型を基本に考える

画像:写真AC
登山で地図と組み合わせて使うなら、透明な板(ベースプレート)に回転するリングと針の入った円形の部分(カプセル)が付いた「ベースプレート型」が基本です。
丸型の方位磁針でも北の方向は分かります。ただし、地図上で2地点を結んで進む方向を測るには、まっすぐな辺と進行方向を示す矢印を備えたベースプレート型が適しています。
照準用の鏡が付いたタイプや電子式のコンパスもありますが、初めての1個としては、地図の上で操作しやすいベースプレート型から選ぶのがおすすめです。
使う地図の縮尺に合った目盛りがあるか確認する
ベースプレートの辺には、長さを測る定規や、地図の縮尺に合わせて距離を読み取れる目盛り(縮尺目盛り)が付いているモデルがあります。
縮尺目盛りは、よく使う地図の縮尺に合っているかを確認しましょう。例えば1:25,000の地図を中心に使うなら1:25,000の目盛り、1:50,000の地図も使うなら1:50,000の目盛りがあると、距離の見当をつけやすくなります。
地図の縮尺に合う目盛りがない場合でも、mm単位の定規があれば、地図上の長さから距離を計算できます。
偏角補正の機能は使う地図に合わせて考える
コンパスの針が指す北(磁北)と、地図の上方向にあたる北(真北)には、少しずれがあります。このずれの角度を「偏角」といいます。
地図に、磁北の方向を示した「磁北線」が入っていれば、その線を基準にコンパスを合わせられるため、コンパス側で偏角を設定する機能は必須ではありません。山と高原地図には、磁北線が表示されています。
一方、磁北線のない地図を使うことが多い人は、偏角をコンパス側で補正できるモデルを候補にするとよいでしょう。偏角補正には、目盛りを見ながら補正するタイプや、あらかじめ偏角を設定しておけるタイプがあるため、商品を選ぶときは補正の方法も確認してください。
拡大鏡や夜光は必要に応じて選ぶ

画像:写真AC
ベースプレートに拡大鏡(ルーペ)が付いたモデルは、地図の小さな文字や記号を確認するときに役立ちます。針や目盛りに夜光・蓄光の塗料を使ったモデルは、薄暗い場所で目盛りを読むときの助けになります。
これらは便利な付加機能ですが、コンパスの基本的な使い方に必須ではありません。地図を細かく読みたいか、暗い時間帯に行動する可能性があるかなど、自分の登山スタイルに合わせて選びましょう。
持ち歩き方に合ったサイズと携帯方法を選ぶ
ベースプレートが長いモデルは、地図上で離れた2地点を結ぶ作業がしやすい一方、かさばります。短いモデルは携帯しやすい反面、地図上で長い距離の方向を合わせる作業はしにくくなります。
付属のひもを首にかけて持ち歩く場合は、引っかかったときに外れる仕組みがあるかを確認しましょう。そうした仕組みがない場合は、首にかけず、ザックの肩ベルトなどに付けて持ち歩くと安心です。
登山におすすめのコンパス6選

画像:写真AC
登山用コンパスは形が似ていて、商品ページだけでは違いが分かりにくい道具です。どれを選べばよいか分からない人が自分の使い方から候補を絞れるよう、「初めての1個として選びやすい標準モデル」「軽量・コンパクトを重視するモデル」「地図読みを助ける機能を重視するモデル」の3タイプに分けて紹介します。
| 商品名 | タイプ | こんな人におすすめ | メーカー公表重量 | 主な特徴 |
| Suunto A-30 NH メトリックコンパス | 標準 | 地図上で距離も測りたい人 | 32g | 1:25,000・1:50,000の縮尺目盛り、拡大鏡、夜光マーク |
| SILVA シルバ No.3 Black | 標準 | 針や目盛りの見やすさを重視したい人 | 33g | 大きなカプセル、北側だけ赤いNS線、視認性を考えた黒いリング、偏差対応目盛り |
| SILVA シルバ No.7 Classic | 軽量・コンパクト | できるだけ小さなコンパスを持ちたい人 | 22g | 長さ76mm・幅51mm。No.3と同じカプセルでプレートを短くしたモデル |
| ハイマウント ルミノーバ マップコンパス 1R | 軽量・コンパクト | 短いプレートでも縮尺目盛りを使いたい人 | 約28g | 長さ約90mm、1:15,000・1:25,000の縮尺目盛り、蓄光 |
| Suunto M-3 NH コンパス | 地図読み機能重視 | 磁北線のない地図を使う人、偏角をコンパス側で設定したい人 | 46g | 調整式の偏角補正、拡大鏡、夜光マーク |
| ハイマウント ルミノーバ マップコンパス 6R | 地図読み機能重視 | 地図の細かな情報を拡大して確認したい人 | 約43g | 約3倍の拡大鏡、1:25,000・1:50,000の縮尺表示、スロープスケール、蓄光 |
※重量は各メーカーの公表値です。付属品を含むかどうかなど、表記の条件は商品によって異なる場合があります。
初めての1個として選びやすい標準モデル
地図と組み合わせて方向を確認するための基本機能を備えたモデルです。初めて登山用コンパスを購入する人は、縮尺目盛りや目盛りの見やすさを確認して選びましょう。
Suunto A-30 NH メトリックコンパス
地図上で距離の見当をつけたり、拡大鏡で小さな文字や記号を確認したりできるモデルです。夜光マークも備えているため、早朝や夕方など周囲が薄暗い場面で目盛りを読むときにも役立ちます。
縮尺の異なる地図を使う人や、基本的な読図に必要な機能をまとめて揃えたい人に向いています。偏角補正は目盛りを見ながら行う固定式のため、偏角をあらかじめ設定しておきたい人は調整式のモデルを検討しましょう。
【特徴】
・1:25,000・1:50,000の縮尺目盛り
・地図の細部を確認できる拡大鏡
・ベゼル・方位マーク・進行方向に夜光マーク
・取り外しできるスナップロック付きの首ひも
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SILVA シルバ No.3 Black<
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カプセルやリングを見やすくし、地図の北とコンパスの北を合わせる操作をしやすくしたモデルです。リング内のNS線は北側だけが赤いため、北と南の向きを判断しやすくなっています。
複雑な付加機能よりも、基本操作の分かりやすさを重視したい人に向いています。
【特徴】
針や目盛りを確認しやすい大型カプセル
北側だけを赤くしたNS線
視認性に配慮した黒いリング
偏差対応目盛り
軽量・コンパクトを重視するモデル
ベースプレートを短くし、携帯しやすくしたモデルです。プレートが短いと地図上で離れた2地点を結びにくくなるため、携帯性と操作性のバランスを考えて選びましょう。
SILVA シルバ No.7 Classic
標準的な大きさのカプセルを使いながら、ベースプレートを短くしたコンパクトなモデルです。ポケットやザックの小さな収納スペースにも収めやすく、必要なときに取り出して使えます。
荷物をできるだけ小さくまとめたい人や、携帯性を優先したい人に向いています。プレートが短いため、地図上で離れた2地点を結んで方向を合わせる作業では、標準的な長さのモデルより扱いにくい場合があります。
【特徴】
・長さ76mm・幅51mm
・メーカー公表重量22g
・標準モデルと同じサイズ・デザインのカプセル
・携帯性を高めた短いベースプレート
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ハイマウント ルミノーバ マップコンパス 1R
短いベースプレートに縮尺目盛りと定規を備え、地図上の距離を確認できるモデルです。指針と目盛りリングには蓄光塗料が使われており、薄暗い場所で方位や目盛りを読むときの助けになります。
携帯性を重視しながら、1:25,000などの縮尺目盛りも使いたい人に向いています。拡大鏡は付いていないため、地図の小さな文字や記号を拡大して確認したい人は注意してください。
【特徴】
・約54×90×10mmの短いベースプレート
・1:15,000・1:25,000の縮尺目盛り
・mm定規
・指針と目盛りリングに蓄光塗料
地図読みを助ける機能を重視するモデル
偏角を設定できる機能や、地図を拡大して確認できるルーペなどを備えたモデルです。基本操作に慣れ、使う地図や必要な機能が明確になっている人に向いています。
Suunto M-3 NH コンパス
使用する地域の偏角をあらかじめ設定でき、磁北線のない地図でも方向を確認しやすいモデルです。拡大鏡と夜光マークも備えており、地図上の細かな情報や薄暗い場所での目盛りの確認にも役立ちます。
磁北線のない地図を使う人や、偏角補正をコンパス側で済ませたい人に向いています。山と高原地図のように磁北線が入った地図を使う場合は、調整式の偏角補正を使わずに操作することもできます。
【特徴】
・調整式の偏角補正
・金属製のキーで調整ねじを回す設定方式
・拡大鏡付きのベースプレート
・薄暗い場所で確認しやすい夜光マーク
ハイマウント ルミノーバ マップコンパス 6R
大きな拡大鏡を備え、地図上の小さな文字や記号を確認しやすいモデルです。縮尺表示や定規、スロープスケールもあり、地図から距離や斜面の情報を読み取る作業に活用できます。
携帯性よりも、地図上での見やすさや作業のしやすさを重視する人に向いています。プレートは約62×112mmと大きめなので、収納場所や持ち歩き方も確認して選びましょう。
【特徴】
・約3倍・30×40mmの拡大鏡
・1:25,000・1:50,000の縮尺表示
・mm定規とスロープスケール
・指針と目盛りリングに蓄光塗料
地図とコンパスの基本の使い方 最初に覚えたい2つの操作

コンパスを購入したら、まずは「地図を実際の方角に合わせる」「地図から進む方向を読み取って確かめる」の2つを覚えれば、分岐などで進む方向を確認できるようになります。
山と高原地図を使う場合は、地図上の磁北線を基準にコンパスを合わせます。ここでは、磁北線が表示された地図を使う前提で、最初に覚えたい2つの操作を紹介します。
地図を実際の方角に合わせる「整置」
地図の向きを実際の方角に合わせることを「整置(せいち)」といいます。整置すると、地図に描かれた尾根や谷、道の向きが、目の前の景色と同じ向きになり、地図と実際の地形を見比べやすくなります。
整置では、コンパスを水平に持って針が落ち着くのを待ち、地図の磁北線と針の北側が平行になるように、地図をコンパスごと回します。
整置した地図で、分岐の道がどちらへ延びているか、次に向かう尾根がどちらにあるかを見比べてみましょう。コンパスの操作に慣れていないうちでも、整置だけで地図と周囲の地形の関係をつかみやすくなります。
地図から進む方向を読み取り、コンパスで確かめる
2つ目の操作は、地図上で決めた進む方向を、実際にどちらの方向へ向かえばよいかに置き換える方法です。
大まかな流れは次のとおりです。
1. 地図上で現在地と目的地を結ぶように、ベースプレートの辺を合わせる
2. リングを回して、リング内の線を地図の磁北線と平行にそろえる。このとき、リング内の北を示す矢印が、磁北線の北側を向くようにする
3. コンパスを水平に持ち、針の北側とリング内の北を示す矢印が重なるまで体ごと向きを変える
4. 進行方向の矢印が指す先が、進むべき方向
リング内の線の向きをそろえる操作は、北と南を取り違えやすい部分です。図解で確認しながら覚えましょう。
方向が分かったら、その方向にある木や岩などの目印を決めて進むと、方向を保ちやすくなります。進みながら、周囲の地形を地図と見比べて確認することも大切です。
使うときは、コンパスを地面と水平に持ち、針が落ち着いてから読み取りましょう。鉄製の手すりや車、スマートフォンなど磁気の影響を与えるものの近くでは針がずれることがあるため、これらから離して使います。
操作は、山へ行く前に身近な場所で練習できます。自宅周辺の地図で整置や方向の確認を試し、慣れてきたら道標の多い低山で、分岐ごとに地図とコンパスで進む方向を確かめてみましょう。
登山用コンパスに関するよくある質問

コンパスを持つ前後に迷いやすい疑問をまとめました。
登山届の「コンパス」とは違うものですか?
違うものです。この記事で紹介している「コンパス」は方角を確かめる道具です。「コンパス」という名前の登山届サービスは、登山計画の作成・提出ができるサービスを指します。
登山計画の作成や登山届の提出を調べている場合は、登山届について解説した記事もあわせて参考にしてください。
100円ショップなどの方位磁針でも使えますか?
北の方向を知る目安にはなりますが、登山で地図と組み合わせて使うなら、ベースプレート型の登山用コンパスを選びましょう。地図の上に置いて2地点を結び、その方向を実際の進む方向に置き換えるには、透明なベースプレートと回転するリングが必要になるためです。
地図とスマートフォンを生かすコンパスを選ぼう

登山用コンパスは、地図と組み合わせて進む方向を確かめるための道具です。初めての1個は、ベースプレート型を基本に、よく使う地図の縮尺、偏角補正の必要性、持ち歩き方などから選びましょう。
購入したら、まずは整置と、地図から進む方向を読み取って確かめる操作から練習してみてください。
「山と高原地図」がアプリでも!
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