乗鞍山麓・五色ヶ原の森を歩く 神秘の苔と滝が彩るトレッキングコースを紹介

岐阜県・乗鞍山麓に広がる「五色ヶ原の森」は、苔むす原生林と清らかな水辺が織りなす神秘の森。入山人数が制限されたガイドツアー制のトレッキングコースは、太古の自然を体感できる貴重なエリアです。

この記事では、五色ヶ原の森のアクセス、見どころ、選べるコースの特徴など、訪れる前に知っておきたい情報を詳しく紹介します。

2025年4月15日 更新

五色ヶ原の森とは?|乗鞍山麓に広がる“太古の自然博物館”


日本最後の秘境「五色ヶ原の森」

標高3,000m級の名峰が連なる北アルプスの南端、乗鞍岳の北西山麓に広がる「五色ヶ原の森」。その広さはおよそ3,000ヘクタールにもおよび、まさに“太古の自然博物館”と呼ぶにふさわしいスケールを誇ります。

森の中には、乗鞍岳の伏流水が育む大小の渓流や滝、湿原、池、苔むした溶岩台地など、多彩な自然環境が凝縮されています。ここには四季折々の山野草、巨木、原生林、そして豊富な野生動物が暮らし、まさに手つかずの自然がそのまま残されている貴重なエリアです。

まるでジブリ映画のような原始の風景が今なお息づいています。屋久島や白神山地と並び、「もののけの森」のような神秘的な景観を体感できるのが、岐阜県・乗鞍山麓に広がる「五色ヶ原の森」です。

 
まるで『もののけ姫』に出てくる森のような、手つかずの原生林も数多く存在

五色ヶ原の森は、かつて山岳信仰の対象とされてきた神聖な地。大正時代には登山道が整備され一部が利用されていましたが、その後は森林所有権の問題やアクセスの困難さから、長く一般の立ち入りが制限されていました。

しかし、貴重な自然を未来に残したいという地域の想いから、環境保全に配慮したガイドツアー形式での公開が実現。2004年7月、ついに五色ヶ原の森は一般向けに開かれることとなり、今日では“知る人ぞ知る秘境トレッキングスポット”として注目を集めています。

乗鞍山麓 五色ヶ原の森
住所:岐阜県高山市丹生川町久手471-3
アクセス:高山ICから約40分/松本ICから約1時間15分
営業期間:5月20日~10月31日
営業時間:7:00〜17:00(コースにより異なる)
入山条件:認定ガイド同行ツアー制(予約制)
料金目安:コースにより異なる
駐車場:約130台(無料)
電話番号:0577-79-2280(五色ヶ原の森案内センター)

五色ヶ原の森を楽しむために知っておきたいこと


入山には森の案内人のガイド同行が必須

五色ヶ原の森は、その貴重な自然環境を守りながら一般公開されている、全国的にも珍しい“厳格に管理されたトレッキングエリア”です。入山に際しては、以下のようなルールや取り組みが徹底されています。

道具や施設は、自然に優しく整備
登山道や橋、山小屋の整備には重機を使わず、人の手と自然素材で整備されています。歩道や設備には倒木や自然石など、現地の資材を活用。

環境に配慮した山小屋の仕組み
山小屋では河川の水力を使った発電や、バイオマス浄化システムを活用した水洗トイレなど、自然と調和したシステムが導入されています。

入山には認定ガイドの同行が必須
自然への影響を最小限に抑えるため、すべての入山者は「森の案内人」と呼ばれる認定ガイドの同行が義務付けられています。

入山者数の制限とガイドツアー制を導入
一日あたりの入山者数を制限し、すべてのトレッキングは有料のガイドツアーにて実施されます。

採取・持ち帰りは禁止
森の中で見つけた山野草、きのこ、昆虫、そして渓流に泳ぐ魚など、いかなるものも採取・持ち帰りは禁止されています。記念に持ち帰るのは「写真と思い出」だけにしましょう。

こうした徹底した自然保護体制によって、五色ヶ原の森は“ただ歩けるだけの場所”ではなく、“自然と向き合う場所”として保たれているのです。

アクセス方法|五色ヶ原の森案内センターまでの行き方

 
各コースの拠点となる「五色ヶ原の森案内センター」

五色ヶ原の森のトレッキングは、すべて「五色ヶ原の森案内センター」からスタート。集合・受付・ガイドとの合流、送迎バスの発着もこのセンターが拠点となります。

■電車+バスでのアクセス
東京・大阪方面からの所要時間:約4時間
東京・大阪 → 名古屋 →(JR特急)→ 高山駅 →(濃飛バス)→ 五色ヶ原入山口バス停下車(約40分)

最寄りの公共交通機関はJR「高山駅」です。そこから濃飛バスに乗り換え、「五色ヶ原入山口」バス停で下車。バス停から案内センターまではすぐです。

■車でのアクセス
出発IC 所要時間 経路
出発IC:中部縦貫道・高山ICから国道158号を利用、所要時間約40分
出発IC:長野道・松本ICから国道158号を西進、所要時間約1時間15分

案内センターには無料駐車場(約130台分)が完備されており、マイカーでのアクセスも便利です。ただし、トレッキング当日は集合時間が早いため、前泊や早朝出発の計画をおすすめします。

五色ヶ原の森を歩く|6つのネイチャートレイルから選べる多彩なコース


五色ヶ原の森コース案内図

五色ヶ原の森には、目的や体力に合わせて選べる6つのトレッキングコースが用意されています。すべてのコースは、豊かな自然環境を守りながら楽しめるよう整備されており、ガイドツアーによる少人数制で運営されています。ガイドツアーは基本的には最少催行人数2名から、小学校4年生以上から参加できます。

ロングコース(1日しっかり歩く本格派向け)

①カモシカコース(難易度★★★)
滝巡りを満喫できる渓谷コース。標高差を活かした地形に沿って、豪快な4つの大滝を間近に見るダイナミックなルート。

距離:約6.7km
所要時間:約8時間
標高:1,360m〜1,620m
料金:大人18,200円(2名)、14,900円(3名)、13,200円(4名)、12,200円(5名)、10,700円(6名以上)/高校生以下14,900円(2名)、11,500円(3名)、9,900円(4名)、8,900円(5名)、7,400円(6名以上)

②シラビソコース(難易度★★★)
苔の森、伏流水の流れる滝や沢、季節で姿を変える神秘的な池など、水の風景が魅力。自然観察にもおすすめ。

距離:約7.3km
所要時間:約8時間
標高:1,360m〜1,640m
料金:大人18,200円(2名)、14,900円(3名)、13,200円(4名)、12,200円(5名)、10,700円(6名以上)/高校生以下14,900円(2名)、11,500円(3名)、9,900円(4名)、8,900円(5名)、7,400円(6名以上)

③ゴスワラコース(難易度★★★★)
乗鞍山麓の最奥部に広がる原生林を歩く上級者向けルート。苔むした巨岩、太古の森を感じる深い自然に包まれる一日。

距離:約6.4km
所要時間:約8時間
標高:1,620m〜1,920m
料金:大人18,200円(2名)、14,900円(3名)、13,200円(4名)、12,200円(5名)、10,700円(6名以上)/高校生以下14,900円(2名)、11,500円(3名)、9,900円(4名)、8,900円(5名)、7,400円(6名以上)

ショートコース(半日で気軽に自然を満喫)

④シラビソショートコース(難易度★★)
シラビソコース後半を抜粋した、苔と滝がハイライトのコース。岩魚見小屋から横手滝、布引滝へと歩く人気ルート。

距離:約4.4km
所要時間:約4時間半
標高:1,360m〜1,640m
大人13,600円(3名)、12,200円(4名)、11,400円(5名)、10,200円(6名以上)/高校生以下10,200円(3名)、8,900円(4名)、8,100円(5名)、6,900円(6名以上)
※最少催行人数は3名

⑤雌池・布引滝コース(難易度★)
神秘の「雌池」と、布のように水が流れ落ちる「布引滝」を訪ねるお手軽コース。初めてのトレッキングにも最適。

距離:約2.0km
所要時間:約2時間
標高:1,360m〜1,460m
料金:大人13,200円(2名)、11,600円(3名)、10,700円(4名)、10,200円(5名)、9,500円(6名以上)/高校生以下9,900円(2名)、8,200円(3名)、7,400円(4名)、6,900円(5名)、6,100円(6名以上)

⑥久手御越滝コース(難易度★★)
森の入口から往復で訪れるショートトリップ。落差58mの「久手御越滝」は圧巻のスケール。時間がない方にもおすすめ。

距離:約3.4km
所要時間:約3時間
標高:1,360m〜1,500m
料金:大人9,900円(2名)、8,200円(3名)、7,400円(4名)、6,900円(5名)、6,100円(6名以上)/高校生以下8,200円(2名)、6,500円(3名)、5,700円(4名)、5,200円(5名)、4,400円(6名以上)

それぞれのコースは、五色ヶ原の森の多彩な自然を感じられるよう設計されており、苔好き・滝好き・森好きにぴったりのトレッキング体験ができます。

苔と水の絶景を歩く|著者が体験した「シラビソコース」トレッキングレポート

五色ヶ原の森の中でも特に人気の高い「シラビソコース」。苔に包まれた森、伏流水が織りなす滝や池など、変化に富んだ景観が魅力です。ここでは、筆者が実際に歩いた体験をもとに、スタートからゴールまで、見どころや雰囲気をそのままお届けします。

出合い小屋からスタート!案内人とともに、苔と水の森へ


休憩所兼避難小屋の「出合い小屋」

朝7時、案内センターに集合。受付を済ませると、認定ガイドと参加者で送迎バスに乗車し、出発点となる「出合い小屋」へ向かいます。バスを降りると、そこはすでに深い森の入口。トレッキングの装備チェックと簡単なブリーフィングを済ませ、トレッキングスタート!

 
コースの入口にて

森の入口には、苔に覆われた岩や湿った針葉樹の根元が広がり、空気はひんやりと澄んでいます。足元にはふかふかの落ち葉と苔。まさに“もののけの森”に足を踏み入れたような感覚です。

【雌池】季節によって姿を変える、不思議な池


夏から秋にかけて突如現れるふしぎな雌池

最初に現れたのは「雌池」。春には姿を消しているのに、夏になると突如水を湛えるという神秘的な池です。この日は運よく水があり、静かな水面には周囲の針葉樹が鏡のように映り込んでいました。

「池がある日とない日では、雰囲気がまったく違いますよ」とガイドさん。苔に包まれた岸辺と静寂な空気が、森の不思議さを一層引き立てます。

【日雇声滝】滝の音に伝わる、静かな伝説


美しい滝に隠された本当は怖い話 

雌池を後にし、苔むす登山道を進むと、やがて水音が大きくなり「日雇声滝(ひよごえたき)」に到着。林業の時代、日雇いの作業員が川流しの途中に命を落としたという伝承があり、「滝の音に歌声が混じる」とも言われています。

滝壺の周りには細かな水しぶきが舞い、空気が一段とひんやり。そんな環境で深呼吸すると、体の奥まで澄んでいくような感覚になります。

【籠尾清水】ミストに包まれる癒しの渓流

 
ミストが立ち込める籠尾清水 

滝からゆるやかな下りを経て、今度は「籠尾清水」へ。ここでは霧のようなミストが立ちこめ、見上げれば木漏れ日が霞みの中でやさしくゆらめいています。苔に包まれた岩々と清流が織りなす光景は、静かな癒しそのもの。

このあたりは足元が少し滑りやすいため、気をつけて歩きましょう。

【ワサビ平湿原】春は天然ワサビが顔を出す

 
春には天然ワサビが生い茂るワサビ平湿原

次に現れたのは、木道が整備された「ワサビ平湿原」。筆者が訪れたのは初秋でしたが、5月中旬からは天然のワサビが群生するそうで、季節によって違った顔を見せてくれる湿原です。湿原を吹き抜ける風が涼しく、ここでもひと休み。

「この湿原には四季折々の山野草も見られるんですよ」とガイドさん。訪れるたびに新しい発見がある場所です。

【岩魚見小屋】ランチと休憩、イワナが泳ぐ清流に癒やされて

 
非常によく整備された快適な山小屋 

湿原を抜けてしばらくすると「岩魚見小屋(いわなみごや)」に到着。トイレや水場も整備されていて、ここでお弁当を広げてランチタイム。近くの清流をのぞくと、名前の通りイワナの姿が泳いでいて、森の命を感じさせてくれます。

ガイドさんと談笑しながらの食事は、ただの山歩きとは違った楽しさがありました。

【シラビソ小屋】森のエネルギーを知る学びの場

 
水力発電の構造を紹介したシラビソ小屋 

再び歩き出し、シラビソやオオシラビソが生い茂る道を抜けると「シラビソ小屋」へ。ここでは、森の水流を活かした水力発電システムが紹介されており、自然と共生する知恵に感動。

トイレや水場もあり、後半戦に向けてのエネルギー補給にぴったりの場所です。

【澄池・濁池】自然が生み出す“ある日ある池”


水が消えていた澄池

次の目的地「澄池」と「濁池」は、その名の通り、水の状態が日によってまったく違う池。筆者が訪れた日はどちらも水がなく、草地のような風景に。

 
こちらも姿が消えていた濁池 

雨のあとには澄んだ水を湛えた美しい池になるのだとか。「見られるかどうかは運次第。そこも魅力のひとつですね」とガイドさん。

【雄池】静かな池に隠された地質の神秘


美しくたたずむ池では蚊の大群に要注意 

苔に包まれた森をさらに進むと、現れたのは「雄池」。静寂な水面は神秘そのものですが、蚊が多いため虫除けは必須です。ここでは火山活動の痕跡も見られ、ガイドさんが指差す地層の説明に耳を傾けながら、自然のスケールを感じました。

【八汐峠】乗鞍岳を望むビューポイント

 
八汐峠から乗鞍岳をのぞむ 

一気に標高を上げて「八汐峠」へ。展望が開け、晴れていれば乗鞍岳の姿を望めます。この日はあいにくの曇り空でしたが、ガスの合間に山容が現れ、参加者から感嘆の声が上がりました。

【横手滝】轟音響くダイナミックな滝

 
豪快な音を立てて流れるダイナミックな横手滝 

峠からブナやダケカンバの林を下り、横手滝へ。毎秒大量の水が流れ落ちる滝の音としぶきに包まれると、自然の迫力に言葉を失います。滝のそばは湿って滑りやすいため、慎重に足を運びましょう。

【布引滝】神秘の滝でフィナーレ

 
苔の深い緑と伏流水が織りなす美しい布引滝 

ラストは「布引滝」。高さ・幅ともに40mを超える巨大な滝で、岩肌を滑るように流れ落ちる水の姿は、まさに自然の芸術。展望台からは滝壺、さらに滝上へもアクセスでき、全身でその美しさを味わえます。

 
コース一番の難所といわれる階段。足元には要注意 

この布引滝方面へ降りる階段が、このコース一番の難所ともいわれています。滑りやすいので足元に十分気をつけて、ゆっくり降りましょう。吊橋からのスリリングな眺めも必見です

【ゴール】森の記憶とともに、出合い小屋へ

再び出合い小屋へ戻り、送迎バスで案内センターに帰着。歩行時間は約8時間。苔、水、滝、原生林…すべてが詰まった贅沢な一日でした。

案内センターに戻ったら、最後のお楽しみ。センター内には、五色ヶ原の森にまつわる写真や映像資料、動物の剥製など、展示が充実しています。

 
本物そっくりのクマの剥製とパシャリ!SNS映えも◎ 

特に注目なのが、入口付近に置かれた“森のクマさん”の剥製。まるで今にも動き出しそうなリアルな姿に、思わずシャッターを切りたくなります。記念写真をSNSにアップすれば、「どこに行ってきたの!?」と話題になること間違いなし。

トレッキングのあとは、極上の温泉でリフレッシュ

 
登山後の疲れがじんわりほどける、飛騨の温泉

五色ヶ原の森で自然とふれ合い、たっぷり汗をかいたあとは、やっぱり温泉で癒やされたいもの。案内センターから車で10〜15分ほどの場所には、名湯として知られる奥飛騨温泉郷が広がっています。

乳白色の硫黄泉から、無色透明の単純泉まで、泉質もさまざま。旅館や日帰り温泉施設も充実しており、どこを選んでもハズレなしの名湯揃いです。露天風呂からは北アルプスの山並みが望めるところもあり、雄大な景色を眺めながら、体も心もぽかぽかに。

一泊する時間があるなら、夕食には飛騨牛のステーキや朴葉味噌(ほおばみそ)、地元産の山菜料理などを堪能するのがおすすめ。山旅の余韻にひたりながら、ゆったりとした時間を過ごせます。

五色ヶ原の森で、苔と水の森をトレッキングで楽しもう

 
シラビソコースのハイライト「布引滝」

岐阜・乗鞍山麓に広がる「五色ヶ原の森」は、苔むす原生林と清流が織りなす“もののけの森”。入山制限やガイド制度があるからこそ守られてきた、貴重な自然が広がっています。

アクセスの良さに加え、トレッキング後の温泉やグルメも充実。苔や滝、原生林など、深い森の魅力を安心して体験できる特別な場所です。

次の休日は、静けさと癒しに包まれる五色ヶ原の森へ。自然の息吹を感じるトレッキングで、心も体もリフレッシュしてみませんか?

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