クマに遭遇してしまったときにできること【知ることは、守ることVol.3】
万が一目の前にクマが現れたとき、生死を分ける最大のポイントは、どこにあるのでしょうか?
実際にクマとの距離や状況に応じて、私たちは具体的にどのように行動すればいいのでしょうか。
「いざその瞬間」が訪れたとき、冷静に命を守る行動がとれるよう、具体的なシチュエーション別の対処法を、一緒に確認していきましょう。
目次
クマに遭遇してしまったとき①クマが遠くにいてあなたの存在に気づいていないとき

クマと遭遇してしまった際は、クマの動きから決して目を離さず、様子を見ながら、その場からゆっくり、かつ静かに後ずさりして離れるのがベストな行動です。
このとき、大きな音を立てたり、急に背中を向けたりしてはいけません。クマを刺激しないよう、相手に正面を向けたまま、じわじわと距離を取ることで、できるだけクマから遠ざかるようにしてください。
クマに遭遇してしまったときにできること②クマがあなたに気づいていても関心を示さない場合

クマから離れる際は、決して背中を見せることなく、ゆっくりと後ずさりしてその場を離れるようにしてください。
このとき注意したいのが「視線」です。クマと真正面からじっと目を合わせてしまうと、相手はそれを「敵対行動」や「攻撃の合図」と受け取り、興奮して襲ってくる恐れがあります。
クマの次の動きを正確に把握するために、相手を常に視界(視野)に入れておく必要はありますが、ジロジロとにらみつけるような強い視線は向けないよう、十分に気をつけましょう。「視線は外しながらも、意識は常にクマに向けておく」というバランスを保つことが大切です。
クマに遭遇してしまったときにできること③クマがゆっくりと近づいてきた場合

もしクマがこちらをじっと見ていて、距離がある程度保たれている場合は、近くにある石や倒木の上に立つなどして、自分自身の体を大きく見せることも効果的だとされています。
身につけている上着を左右に大きく広げたり、持っている登山用のトレッキングポール(ストック)を上に掲げたりして、高さを出すことで自分の体を大きく見せると、クマがこちらを警戒し、追い払えることがあります。
ただしこのときも最も注意すべきなのは、クマを過度に興奮させてしまうような大声を出すのは厳禁である、という点。あくまで「自分は大きくて手強い存在だ」と静かにアピールすることを意識してください。
クマに遭遇してしまったときにできること④2人以上でクマに出会った場合

複数人で行動している場合は、お互いにはぐれないようしっかりとまとまって行動し、もし近くに頑丈な建物や車があるときには、すぐにその中に避難して身の安全を確保しましょう。
万が一、周囲にすぐに逃げ込めるような避難場所がないときには、近くにある大きな木や電柱などを探してください。それらをクマと自分との間の障害物にするように位置取ることで、クマが直線的に突進してくるのを防いだり、視界を遮ったりする効果があるとされています。
目についた障害物を賢く利用して、少しでも安全な状況を作り出しましょう。
クマに遭遇してしまったときにできること⑤クマが興奮したり、防御的な行動を示したりした場合

クマが興奮して、以下のような「防御的な行動(威嚇サイン)」を示したときは、事態が非常に緊迫している証拠です。
・息を切らす
・アゴを「カチカチ」と鳴らす
・頭を前後に振る
・うなり声を上げる
・地面をたたく
・前に飛び跳ねる
・よだれを垂らす
このような明確な危険サインが見られた場合は、もはや下手に動くべきではありません。その場にそっと留まり、持参したクマ撃退スプレーをいつでも噴射できるよう構えるなどして、クマ自らが落ち着きを取り戻し、立ち去ってくれるのを待つしかありません。
ここでも、焦ってパニックになり、走って逃げ出すことだけは絶対に避けてください。これこそが最悪のパターンです。
クマには「逃走する対象をどこまでも追いかける」という強い習性があるため、背中を見せて逃げ出す行為は、クマの攻撃性を一気に高め、致命的な襲撃を招くことになってしまいます。
【いざという時に覚えておきたい】クマへの防御姿勢とは?
もしクマ撃退スプレーなどを持っておらず、突然クマに遭遇してそのまま激しく襲いかかられてしまったら、最終手段として命を守るための「防御姿勢」をとらなければなりません。
具体的には、両手で首の後ろをしっかりと覆うように手を組み、うつ伏せになって丸くなります。これにより、致命傷になりやすい「首、顔面、頭頸部(とうけいぶ)、腹部」をクマの鋭いツメや牙からできるだけガードします。
いざ実際に襲いかかられた緊迫した状況においては、まずは「とにかく致命傷になるような受傷を避けること」が何よりも大切になります。この姿勢をとることで、生存確率を少しでも高めることができるため、万が一の知識として必ず頭に入れておきましょう。

左:丸まった防御姿勢
右:体を伸ばした(うつ伏せの)状態での防御姿勢
いずれの姿勢をとる場合でも、急所である「顔面、頭頸部(とうけいぶ)、腹部」への深刻な受傷を極力防ぐという、非常に高い効果があります。
さらにその際、背中にしっかりとしたバックパック(リュックサック)を背負い、頭にヘルメットや帽子をかぶっていれば、それらが頑丈な「プロテクター(防具)」の役目を果たしてくれます。クマの鋭いツメや牙が直接肌に届くのを防ぎ、体への衝撃を大幅に和らげてくれますので、装備は外さずそのままの状態で身を守りましょう。
気になるギモン:死んだふりって実際どうなの?

「クマと出会ったら、死んだふりをすればいい」という話を、昔からときどき耳にすることがありますよね。しかし、実はこれは科学的な根拠がまったくない、ただの俗説(迷信)です。
もし実際にクマの前で死んだふりをしてしまうと、クマは捕食行動(エサを探す行動)の一環として、動かなくなった対象が何なのかを確認しようと近づいてきてしまいます。最悪の場合、「これはエサだ」と認識されてそのまま襲われてしまう可能性が非常に高くなるだけですので、絶対にやってはいけません。
おわりに
万が一目の前にクマが現れたとき、生死を分ける最大のポイントは、恐怖に直面したその瞬間に、いかに「あわてず冷静でいられるか」につきます。
「もし遭遇したらどうするか」を日頃から頭の片隅に置いておくだけでも、いざという時の動き方は大きく変わります。この記事で確認したポイントを忘れず、常に高い安全意識を持って行動することが大切です。
なおこの記事で紹介した内容は、書籍『さまようクマ、変わる森 正しく怖がるための新しい教科書』に掲載している情報の一部をもとに再構成したものです。
クマとの向き合い方をより深く知りたい方は、ぜひ本書もあわせてご覧ください。
クマを「正しく怖がる」ために読みたい一冊
『さまようクマ、変わる森 正しく怖がるための新しい教科書』は、感情論や俗説に流されるのではなく、事実をもとにクマを「正しく怖がる」ための知識をまとめた一冊です。
連日のように報道されるクマの出没や人身被害のニュース。
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本書では、クマの第一級の専門家を監修に迎え、過疎化や環境の変化、アーバンベアの出現、生態系のなかでのクマの役割、そして万が一遭遇してしまったときの身の守り方まで、豊富なデータとともに、分かりやすく解説しています。
クマの活動が活発になるこれからの時期、自分や大切な人の身を守るための知識を深めたい方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
監修者プロフィール
小池 伸介(こいけ・しんすけ)
1979年、名古屋市生まれ。東京農工大学大学院農学研究院教授。博士(農学)。専門は生態学。主な研究対象は、森林生態系における生物間相互作用、ツキノワグマの生物学など。東京都奥多摩、栃木県、群馬県、神奈川県などにおいてツキノワグマの生態や森林での生き物同士の関係を研究。NGO日本クマネットワーク代表。
商品概要
商品名 :『さまようクマ、変わる森 正しく怖がるための新しい教科書』
発売日 :2026年5月29日
定価 :2,200円(本体2,000円+税10%)
出版社 :株式会社 昭文社

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