栗駒山登山 雪渓と花の沢道を歩く静かな表掛(御沢)コースへ

栗駒山は「花の名山」「神の絨毯」と呼ばれるほど、四季折々の自然が楽しめる東北の人気登山スポット。
登山者が多く集まる有名ルートを避け、静かな山旅を楽しむなら、宮城県側の「表掛(御沢)コース」がおすすめです。
沢沿いの道を登り、冷たい雪渓や高山植物が咲き誇るお花畑を抜けて、山頂の360度パノラマへ。変化に富んだ自然と静けさをじっくり味わえる、“栗駒山の魅力が凝縮されたコース”をご紹介します。
栗駒山とは
栗駒山は、標高1,626m。宮城・岩手・秋田の3県にまたがる、なだらかな山容が美しい山で、「日本二百名山」や「花の百名山」にも選ばれています。
豊富な雪解け水が育む高山植物や、秋に山肌を彩る圧巻の紅葉は、まさに絶景。「神の絨毯」と称される紅葉の名所としても知られています。
登山ルートは複数ありますが、整備されたコースが多く、体力や経験に応じてルートを選べるのも魅力。とくに宮城県側の「表掛(御沢)コース」は、沢沿いや雪渓、お花畑を楽しめる変化に富んだ道で、栗駒山の自然をじっくり堪能できます。
今回歩くコースはこちら

【スタート】表掛(御沢)コース登山口 ⇒ 御沢 ⇒ 大日沢出合 ⇒ ハシゴ滝 ⇒ 御沢下・大地森コース分岐 ⇒ 御室・駒形根神社奥の宮 ⇒ 天狗平 ⇒ 栗駒山 ⇒ 中央コース ⇒ 1408m小ピーク ⇒ 【ゴール】いわかがみ平
栗駒山・表掛(御沢)コースの始点へ!いわかがみ平から登山口まで歩く
栗駒山・いわかがみ平へは、東北地方の登山口によくあるように、駅からの定期バス路線がありません。そのため、マイカー利用か、JR東北新幹線「くりこま高原駅」からのタクシーが主なアクセス手段になります。
なお、紅葉シーズンには臨時バス「栗駒山・紅葉号」が運行され、同時期にはマイカー規制も実施されるため、事前の情報確認は必須です。

栗駒レストハウスと栗駒山が朝焼けでオレンジ色に染まる
今回は、下山口となる栗駒レストハウス駐車場(いわかがみ平駐車場)に車を停めて、登山の起点である表掛(御沢)コース登山口まで、県道42号を徒歩で約4km移動。

車道歩きは涼しい朝のうちが快適
舗装路を歩くのは登山では敬遠されがちですが、早朝の冷たい空気の中、静かな山の景色を眺めながらの道のりは、むしろ清々しさを感じられるものでした。

スノーシェルター先の左カーブが登山口。駐車スペース(約20台)あり
登山口からはいよいよ表掛(御沢)コースがスタート。最初は旧スキー場跡の草原を抜け、やがて登山道は山腹を横切りながら岩魚沢やデロコ沢を越え、ブナ林の中へと進んでいきます。
道沿いには、チチタケやアカヤマドリ、ドクベニタケなど、夏ならではのキノコたちがひっそりと姿を見せてくれました。自然を観察しながら歩くのも、このコースの楽しみのひとつです。
沢の出合から、沢沿いを約2kmさかのぼる沢歩きへ
硫黄の香りが漂い、白い湯の花が水面に広がる小沢を渡ると、御沢(おさわ)の出合に到着します。

御沢の出合。ここから約2kmの沢歩きがスタート
飛び石で対岸に渡り、腰を下ろして沢靴に履き替えたら、ここから約2kmの沢沿いルートがスタートです。
御沢にはロープが必要な大きな滝はなく、沢登り初心者でも歩きやすいルート。ただし、大きな岩が連続するガレ場や、石を跳んで渡る渡渉ポイントも多く、ルートファインディングの要素も含まれます。

沢靴推奨。登山靴では渡渉が難しい箇所も
登山ルートは、岩に描かれた黄色のペンキマークや木に巻かれた赤テープで示されていますが、通常の登山靴では濡れずに進むのは困難。靴を浸水させる登山者も多いため、沢靴や沢タビを使ってジャブジャブ進むスタイルがおすすめです。ルートも自由度が広がり、ヤブに覆われた中洲を避けて歩くこともできます。
とはいえ、普通の登山道より時間がかかるため、焦らずゆっくり。涼やかな沢の流れに癒やされながら、のんびりと沢歩きを楽しみましょう。
※御沢の水は鉄分を含むため、飲用には適しません。
御沢で唯一の滝「ハシゴ滝」に出合う
沢を2時間ほどさかのぼると、流れはやや細くなり、右手から大日(だいにち)沢が合流してきます。ここは左側の沢に進みますが、分岐点付近では木々の間から栗駒山の山頂を遠くに望むことができ、ゴールの遠さに少し驚かされるかもしれません。

大日沢分岐。誤進入防止のロープあり
その先、沢筋の傾斜が増してきた頃、目の前に現れるのが、御沢で唯一の大きな滝「ハシゴ滝」です。ゴーロ(大きな岩がゴロゴロした斜面)状の沢に、大きな岩が幾層にも重なるように連なり、沢を塞ぐように流れ落ちています。

御沢唯一の大滝・ハシゴ滝。右岸に巻き道あり
一見、通過に苦労しそうな印象を受けますが、右岸(向かって右側)にはロープが設置された巻き道があり、安全に通過できます。焦らず、慎重に進みましょう。
※ゴーロ:大きな岩が転がる斜面。浮石が多いため、通過時は慎重に足元を確認しましょう。
高山植物に迎えられる御室下の雪田草原へ
ハシゴ滝を越えると、沢は急に穏やかになり、静かなせせらぎが続きます。途中には御室(おむろ)の岩壁を望むビューポイントがあり、雪渓の有無を確認できますが、この日は完全に雪解けしていました。

夏は登山道が草に隠れやすいため、山と高原地図アプリで現在位置と進む方向を確認すると安心
沢を左右に渡り返しながら進むと、右手の草つき斜面に登山道が移るポイントがあります。ここで沢靴から登山靴に履き替え、斜面を登っていきます。ただし、この付近は草が茂って登山道が不明瞭になりやすいため、道迷いに注意が必要です。

御室下の分岐。左が大地森コース、御室方面は上部の岩壁に向かって直進
そして最後の登り。半円形の地形をぐるりと囲む袋小路を進み、ロープを頼りにザレた急斜面を登ると、一気に視界が開け、色とりどりの高山植物が咲き乱れる「御室下の雪田草原」へ。

この周辺は分岐が多いので、地図での現在地確認を忘れずに
まるで別世界のようなこの場所は、栗駒山随一の美しい景観。まさに“栗駒山の桃源郷”とも呼びたくなるような、特別な空間が広がっています。
※雪田草原とは:残雪のあと、ごく限られた時期にだけ姿を現す、高山植物の群生地のこと。
かつての山岳信仰の聖地へ──駒形根神社 奥の院をたずねて
以前は盛夏まで雪渓が残っていた御室下も、最近は地球温暖化の影響か、7月中に雪が消えてしまう年が増えてきました。この日は念のため軽アイゼンを携行していましたが、出番はありませんでした。
御室へ向かう登りでは、右手に栗駒山、左前方に虚空蔵山、正面に御室の岩壁という開放的な風景が広がり、足元には夏の高山植物が群生。踏み跡はあるものの、雪解けによってルートは日々変わるため、道が不鮮明になる箇所もあります。植物を踏まないよう注意しながら、慎重に登りましょう。

雪田草原に咲く高山植物と虚空蔵山の絶景
やがて岩壁の基部まで登り詰めると、明瞭な登山道が現れます。そこから右手へ少し進むと、栗駒山の山岳信仰を今に伝える「駒形根神社 奥の院」がひっそりと祀られています。

岩場に祀られた駒形根神社 奥の院。登山の安全祈願にも
岩のくぼみに鎮座する小さな祠には、駒形の石板などが奉納されており、かつて多くの人々がこの場所を目指して登った歴史を感じさせてくれます。登山の合間に静かに手を合わせ、山の恵みに感謝を。
天狗平を越えて、いよいよ栗駒山の山頂へ
御室を過ぎた先は、上部の岩壁の下をなぞるように進む登りパートへ。場所によっては草ヤブが道を隠し、ガレ場が続く区間もあり、さらに日差しを遮る木陰がほとんどないため、暑さと体力の消耗には要注意です。
この区間は、ペースを落として花々を楽しみながら歩くのがおすすめ。足元にはキンコウカ、イワイチョウ、オオバギボウシなどの高山植物が咲き、視線を上げれば、雄大な栗駒山の姿がぐんと近づいてきます。

迫力ある栗駒山の山容がすぐ近くに

雪田草原に咲く夏の代表花・キンコウカ
なお、御沢(表掛)コースは下り利用が禁止されています。転倒・滑落リスクがあるうえ、7月上旬までは雪渓の傾斜が強く歩行困難なため、コースを楽しめるのは盛夏〜秋の間に限られます。
やがて、左手の岩壁が切れる箇所に差しかかると、灌木につかまりながら登り切ると湯浜コースに合流。ここからは整備された尾根道となり、まもなく天狗平に到着します。

乾いた尾根で咲くハクサンシャジンの群落
稜線上の分岐・天狗平に出ると、登山者の姿が一気に増えます。南側から登ってきた私に、女性グループが「どこから登ったんですか?」と声をかけてきました。「御沢コースですよ」と伝えると、そルートの存在を知らない様子でした。

登山者でにぎわう稜線の要所・天狗平
ちなみに、ここから分岐する須川コース(昭和湖経由)は火山ガス濃度の影響で通行止め。現在は苔花台まで立ち入り禁止のため、須川温泉へのエスケープには使えません。山頂へは、天狗岩の脇を通る展望の良い尾根を進んで約20分。いよいよフィナーレに近づきます。

天狗岩から虚空蔵山や御室の岩壁を一望

火山監視カメラ付近から望む秣岳。この日は雲が多く鳥海山は見えず
栗駒山の山頂から中央コースで、いわかがみ平へ下山
ついにたどり着いた栗駒山の山頂。週末には多くの登山者で賑わいますが、この日は平日だったこともあり、比較的静かな空気が流れていました。

山頂は広く開けており、道を間違えやすいので下山時は山と高原地図で確認を
山頂には、山岳信仰の象徴でもある駒形根神社 奥の宮の社殿が建っています。木造だった旧社殿はすでに倒壊し、1987年に鉄製で再建。その後、風雪と火山ガスの影響で損傷が進み、2023年秋に御影石製の新社殿として再建されました。毎年5月の第3日曜には、山開きとあわせて「奥宮まいり」が行われています。
栗駒山は周囲に高い山がない独立峰のため、晴れた日には岩手山、早池峰山、鳥海山、蔵王山など、東北の名峰をぐるりと一望。この日も真夏とは思えぬ涼風が吹き抜け、近くの山並みを眺めながらのんびりと休憩しました。
本来、山岳信仰における正規の巡礼順路は、登りを表掛(御沢)コース、下りを裏掛コースとする周回ルート。しかし今回は真夏の厳しい陽射しを考慮し、距離が短く比較的なだらかな中央コースを選択していわかがみ平へ下山します。

山頂直下からの下り。中央コースは正面のなだらかな斜面
下りはじめはザレた急斜面のつづら折り。途中、登山道わきにはウメバチソウやミヤマアキノキリンソウが咲いており、秋の気配を感じさせてくれます。

登山道の脇に咲くウメバチソウ。季節の移ろいを感じる
やがて標高1,408mの小ピークに立つと、眼下にはハイマツの海と、栗駒山の端正な山容が広がります。秋にはこの一帯が「神の絨毯」と称される極彩色の紅葉に染まり、見事な景観が広がります。

標高が高いため、このあたりはハイマツ帯
視線を西へ向けると、虚空蔵山や御室、表掛(御沢)コースの上部ルートが一望に。斜面に現れる馬の雪形は、春の風物詩です。

ここから先は灌木帯。展望はこの地点が最後
中央コースの下半分は、玉石をコンクリートで固めた簡易舗装路になりますが、老朽化が進んでおり、崩れた箇所や傾斜、土の露出もあるため、油断せず歩きましょう。

舗装路は滑りやすい箇所も。足元に注意
左手に栗駒レストハウスが見えてきたら、いわかがみ平の駐車場はすぐそこ。レストハウス内には食事処、売店、休憩スペースがあり、下山後に味わうご褒美のソフトクリームは格別の味です。

無事、いわかがみ平に到着!
栗駒山の自然と歴史にふれ、静かな沢をたどってたどり着いた山頂。夏の空の下で、心も身体も満たされる、充実の山旅となりました。
下山後は、くりこま高原温泉郷の日帰り湯で汗を流して、登山の余韻に浸りましょう。
執筆・写真:山と高原地図「栗駒・早池峰」著者 曽根田 卓
今回歩いたコースはこちら

【スタート】表掛(御沢)コース登山口 ⇒ 御沢 ⇒ 大日沢出合 ⇒ ハシゴ滝 ⇒ 御沢下・大地森コース分岐 ⇒ 御室・駒形根神社奥の宮 ⇒ 天狗平 ⇒ 栗駒山 ⇒ 中央コース ⇒ 1408m小ピーク ⇒ 【ゴール】いわかがみ平
【もしもの時のために・・・】紙地図も携行しよう


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