旭岳の絶景登山ガイド 初心者もOK!ロープウェイから行く日本百名山

噴煙を上げる火山と、紅葉や高山植物が彩る山肌。日本百名山の一つで、北海道の最高峰「旭岳(あさひだけ、標高2,291m)」の周囲に広がるフィールドは、神々の遊ぶ庭(カムイミンタラ)とも呼ばれてきました。
ロープウェイを使って標高を一気に上げ、四季折々の自然を手軽に楽しめる名峰です。今回は初心者向けと中級者向けの2つの登山ルートをご紹介。近くの美瑛の丘陵と合わせて訪れれば、ゆったりとした北海道の旅が楽しめます。
目次
北海道の最高峰・旭岳の魅力とは?

轟くように噴気を上げる、雄大な旭岳
北海道の最高峰・旭岳は、北海道の屋根とも呼ばれている大雪山系の主峰です。今もなお噴煙を上げる活火山であり、荒涼とした火山地形が広がる一方、チングルマやエゾノツガザクラなどの高山植物が咲き誇り、自然の繊細な美しさも併せ持っています。
また、標高に加えて高緯度に位置していることから、本州の3,000m級と同等の厳しい気候を有し、秋には全国で最も早く紅葉が始まる山としても有名。季節ごとに変化する景観で、訪れるたびに違った表情を見せてくれる北海道を代表する山のひとつです。
旭岳の玄関口 旭岳ロープウェイ「姿見駅」へのアクセス情報

旭岳登山の拠点と言える「旭岳ロープウェイ」
今回の王道登山ルートは、約10分の空中散歩から始まります。標高1,100mの山麓駅から1,600mの姿見駅へと一気に駆け上がる旭岳ロープウェイは、森林限界を超えて運行する国内唯一のロープウェイ。
まずは、旭岳ロープウェイ山麓駅(旭岳温泉)へのアクセス情報をご紹介します。
電車の場合
JR函館本線「旭川駅」から、旭岳ロープウェイ山麓駅までは旭川電気軌道バス「いで湯号」を利用して約1時間30分。終点の「旭岳ロープウェイ前」で下車すれば、ロープウェイ乗り場はすぐ目の前。乗り換えも少なく、公共交通でも安心してアクセスできます。
車の場合
道央自動車道「旭川北IC」から約70分。山麓駅周辺には有料駐車場(1日500円)も整備されており、観光シーズンでも比較的スムーズに駐車可能。登山だけでなく、大雪山の自然を気軽に楽しみたい人にも便利な拠点です。
旭岳登山の王道ルート 北海道の最高峰から見る絶景

火山らしい道が続く姿見の池〜旭岳往復コース
旭岳への主な登山コースは、旭岳ロープウェイで標高1,600mの「姿見駅」まで上がり、そこから「姿見の池」を経由して山頂を目指すコース(姿見の池〜旭岳往復コース)。高山帯を進むこのコースは、片道およそ2〜2.5時間。登山道はしっかりと整備されており、初心者でも比較的歩きやすいのが特徴です。
ロープウェイで標高1,600mへ 姿見駅から始まる旭岳登山

圧倒的なスケールで佇む旭岳に向かって運行する
山麓駅からロープウェイに乗り、登山コースのスタート地点である姿見駅へ向かいます。乗車直後は、ダケカンバやトドマツの樹林帯が眼下に広がりますが、標高1,400mを過ぎると風景が一変。
背の低い高山植物が点在するハイマツ帯へと移行し、やがて石がちな火山地形が目前に。姿見駅に近づくにつれ、噴煙を上げる旭岳の荒々しい姿が目に飛び込んできます。

車窓から日本一早い紅葉の山肌を望む
また、9月初旬から始まる紅葉シーズンには、チングルマやナナカマド、ウラジロナナカマドなどが赤やオレンジに染まり、中旬には見頃を迎えます。10月に入ると、山麓では黄葉するダケカンバも美しく、色彩豊かな山肌はまるで絵画のよう。運が良ければ、山頂の冠雪と紅葉が共演する圧巻の景色にも出会えるかもしれません。
夫婦池から姿見の池へ 高山植物とともに歩く静かな時間

旭岳と日本一早い紅葉の共演を楽しむ第1展望台
旭岳ロープウェイで姿見駅まで上がったら、ぜひ立ち寄りたいのが「姿見の池」周辺の自然観察路です。駅から夫婦池や姿見の池をめぐって戻る周回路は、1周約1.7km・所要40分ほど。道はよく整備されており、高低差も少ないため、登山初心者や観光目的の方でも気軽に歩けます。
まずは時計回りに、第1〜第3展望台を経て歩くのがおすすめ。途中には勢いよく上がる噴気をのぞみ、大自然の迫力を間近に感じることができます。

パッチワークのように彩られる旭岳の日本一早い紅葉
紅葉のシーズンには赤と緑が織りなす美しい風景が広がります。色づいた高山植物が描き出す鮮やかな景観は、全国の写真家や登山者を魅了してやみません。

ハイキングコースの見どころの一つ「夫婦池」
道中には美しい池が点在し、なかでも「すり鉢池」と「鏡池」は“夫婦池”として親しまれています。池の間を抜けていくルート取りが印象的で、北海道らしい雄大な地形を感じられる場所です。

旭岳の姿が映り込む幻想的な「姿見の池」
ルートの中間にたたずむ「姿見の池」は、湖面に噴煙を上げる旭岳を映し出し、まさに絵のような光景。その厳かさと美しさに、アイヌ語で“カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)”と呼ばれてきた理由を実感せずにはいられません。
姿見の池の隣には「旭岳石室」という避難小屋が設けられており、旭岳へと続く登山口の目印になっています。
展望を楽しみながら登る 姿見の池から旭岳山頂へ

登山道の途中からは、山麓に広がる絶景が一面に
一見すると単調に感じるかもしれませんが、登山道は明瞭で整備も行き届いており、登山者も多いため安心して歩けるコースです。姿見の池から山頂まではおよそ2時間。体力は必要ですが、ペースを守れば無理なく登ることができます。
登っている最中は景色の変化が少ないように感じるかもしれませんが、ぜひときどき振り返ってみてください。標高が上がるにつれて、視界に広がる景色のスケールも一段と大きくなっているのが実感できるはずです。

ふと振り返ると、遥か下に広がる森林限界
登り始めは、姿見の池や森林限界のラインがすぐ近くに見えますが、八合目付近までくると、それらははるか下方に。すでに雲の上にいることを実感しながら、北海道の頂へ向かっているという臨場感が味わえるでしょう。

十勝岳連峰の峰々まで、一連の山並みが見渡せる
直登の斜面を登りきると、道は大きくカーブを描いて回り込み、いよいよ山頂まであとわずか。

北海道最高峰から日本一早い紅葉を眺める
最後のカーブを登りきると、ついに北海道の最高峰・旭岳の山頂へ!約2時間半にわたる登りの末にたどり着く瞬間は、まさに努力が報われるひとときです。
360度にわたる壮大な展望が広がり、北大雪の連なりや、表大雪の主稜線までも一望。眼下に道央のフィールドを見渡すパノラマも素晴らしく、まさに北海道のスケールを肌で感じられる圧巻の光景が待っています。
旭岳登山の健脚者向けルート 黒岳から旭岳までの縦走に挑む

憧れの表大雪・黒岳〜旭岳縦走コース
旭岳へのもうひとつのおすすめルートが、黒岳(くろだけ、標高1,984m)からの縦走です。黒岳へは、層雲峡温泉街の目の前から出発する黒岳ロープウェイと、そこから続く登山道を経てアクセスすることができます。リフトの終点である黒岳7合目から旭岳までは片道5〜6時間ほど。
ピストンで往復するとロープウェイやリフトの運行時間ギリギリの登山と下山になるため健脚者向けです。一方で登山と下山をバスで行い、黒岳ロープウェイ→黒岳→旭岳→姿見の池→旭岳ロープウェイとつなぐことも可能。この場合、旭岳温泉の宿に一泊するのもおすすめです。
黒岳ロープウェイで登山口へ 雲海が広がる展望地としても知られる

層雲峡から大雪山へアクセスする黒岳ロープウェイ
全長1,500mの黒岳ロープウェイは、層雲峡(そううんきょう)から標高1,300mの黒岳5合目までを約7分で結びます。途中には、石狩川によって削られたV字谷や鋭く切り立つ岩峰など、層雲峡ならではのダイナミックな地形を楽しめるのが魅力です。

途中、心洗われるような雲海の絶景に出会えることも
5合目からはさらに、黒岳リフトに乗り継ぐことで、標高1,520mの7合目までアプローチ可能です。リフトからは広大な山岳パノラマが目の前に広がり、早朝には雲海が見られることも。特に7月下旬〜8月は発生率が高く、無風・快晴・低温の条件が揃えば幻想的な雲の海が広がります。
黒岳山頂まで約1時間半 登山初心者にも歩きやすい道のり

美しい北大雪の山並みを見渡すパノラマ登山道が続く
黒岳リフトの終点・7合目から、標高1,984mの黒岳山頂までは約2.1km。標高差約400mを1時間半ほどで登る定番コースです。短時間ながら、大雪山系のダイナミックな自然を存分に楽しめる点が魅力。
登山道は前半こそつづら折りで急登が続きますが、足元はしっかり整備されており、比較的安全に登ることができます。

色鮮やかな紅葉に包まれるマネキ岩
後半は徐々に展望が開け、特徴的な王冠のような「マネキ岩」が見えてくると山頂はすぐそこ。稜線に出た瞬間、広がるのは吸い込まれそうな大パノラマです。

雲上の稜線美に出会える黒岳山頂
黒岳山頂からは、主峰・旭岳をはじめとして、北海岳や北鎮岳などの表大雪の山々を一望。秋には色とりどりの紅葉に包まれ、夏にはお花畑が彩る、季節ごとに表情を変える絶景に出会えます。
ハイキング気分で楽しみたいなら、7合目にある「黒岳カムイの森のみち」がおすすめ。往復30分ほどの散策路で、小さな展望台から層雲峡の峡谷と滝を眺められます。なお、7合目以降にはトイレがないため、リフト利用の前に5合目で済ませておくのが安心です。
黒岳から旭岳へ 約6時間の縦走で大雪山の稜線をたどる

表大雪の稜線を辿りながら、旭岳の山頂へと向かう
ここから始まるのが黒岳から旭岳を結ぶ本格縦走ルート。中級者以上向けのロングトレイルで、所要時間は片道5〜6時間。途中には北鎮岳(標高2,244m)や中岳(標高2,113m)、間宮岳(2,185m)などを経由し、変化に富んだ山行が楽しめます。
黒岳山頂から石室を経て北鎮岳方面へ向かうと、森林限界を超えた広大な高原地帯に出ます。ここからは、大雪山ならではの大スケールな稜線歩き。視界をさえぎるものがなく、360度のパノラマが広がります。

異世界のような趣を見せる「御鉢平」
左手に見渡すのは大雪山の中央部にあるカルデラ地形「御鉢平」。カルデラ中心の底部には有毒温泉という温泉が湧いており、強力な毒性をもつ火山ガスが噴出しているため、立ち入り禁止となっています。

黒岳と旭岳の縦走の途中に通る間宮岳
分岐は間宮岳を越えた先にあり、そこから約1時間10分で旭岳の山頂へ。火山地形ならではの荒々しさが際立つ道となり、自然のエネルギーを肌で感じられる区間です。
天気が良ければ南側には日本百名山の一つ・トムラウシ山(標高2,141m)を遠望できます。滑りやすいザレ場が続きますが、北海道最高峰・旭岳までの道のりを歩ききったときの達成感と感動はひとしおです。

道中から望む北海道最高峰・旭岳の山容
長時間にわたる行程で、悪天候時には視界を失いやすいエリアもあります。十分な水分・補給食のほか、地図やGPS、防寒対策の備えは必須です。黒岳から旭岳への縦走は、北海道の壮大な自然を味わえる特別な山行。しっかりと準備を整えたうえで挑戦したい、魅力にあふれたルートです。
旭岳下山後は、丘が織りなす色彩の絵画「美瑛」をのんびりめぐる旅

虹色の花畑の絶景が待つ「四季彩の丘」
旭岳からの下山後は、丘のまち美瑛を巡りましょう。大雪山のふもとに広がるこのエリアは、ゆるやかな丘陵と彩り豊かな風景が広がり、まるで一枚の絵画のような美しさです。季節の移ろいとともに畑の色彩も変わり、「四季彩の丘」や「パッチワークの路」などの名所が風景に彩りを添えます。

のどかな風景がどこまでも続く「パッチワークの路」
さらに、「ケンとメリーの木」や「セブンスターの木」、「マイルドセブンの丘」など、かつてCMやポスターを飾った名スポットも近くに点在。広がる風景を前に、思わず足を止めて深呼吸したくなるはず。
早朝や夕暮れには、山の景色がやわらかく色づきます。静かな空気の中、大地の匂いがふわっと漂い、どこか懐かしい気持ちに包まれますよ。1泊して観光にたっぷり時間をかけるのもおすすめです。
登って、歩いて、癒されて。旭岳と美瑛をめぐる、大雪山の旅

一面が鮮やかな風景に包まれる初秋の「旭岳」
旭岳は、北海道の大自然を全身で体感できる、日本屈指の名峰です。標高2,291mの頂からの眺望、噴煙が立ち上る火山地形、そして季節ごとに彩りを変える高山植物や紅葉の美しさ。ロープウェイを使えばアクセスも良く、初心者から上級者まで幅広く楽しめます。
登山後は、山麓の美瑛エリアにも足を延ばし、大雪山の広がりを感じてみるのもおすすめ。自然と向き合い心洗われるひとときを、ぜひ旭岳で味わってください。
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