日本三霊山・白山を歩く 高山植物と絶景を楽しむ、1泊2日の入門登山ガイド

日本三霊山のひとつに数えられる白山は、石川・岐阜・福井の県境にそびえる名峰。豊かな自然と信仰の歴史が息づき、多彩な登山ルートが整備されています。中でも人気なのが、別当出合からスタートする「砂防新道」。景色がよく歩きやすいため、初めての登山にもおすすめです。

今回はこの砂防新道を使い、1日目に室堂まで登って宿泊、2日目に白山最高峰・御前峰を目指す、定番の1泊2日ルートをご紹介します。

2025年7月28日 更新

日本三霊山のひとつ「白山」の魅力とは?


空へと手が届くような御前峰山頂

北陸地方の雄「白山(はくさん・標高2,702m)」は、富士山・立山と並び「日本三霊山」に数えられる名峰です。古くから山岳信仰の対象として敬われ、今も多くの登山者や参拝者が訪れる神聖な空気をまとった山。山頂を目指す登山道にはブナやダケカンバの原生林が広がり、夏にはクロユリやハクサンコザクラなど、名に白山を冠する高山植物が彩りを添えます。

標高2,702mの御前峰(ごぜんがみね)をはじめとした峰々からは、天候に恵まれれば北アルプスや日本海まで一望できる壮大な景観も。季節の移ろいごとに違った美しさを見せる白山は、北陸を代表する自然の宝庫であり、訪れる人の心を静かに揺さぶります。

白山登山はここから始まる 別当出合へのアクセス情報


シーズン中の繁忙期は、別当出合への乗り入れは制限される

白山登山の玄関口となる「別当出合(べっとうであい)」。夏山〜秋山のシーズン(7月〜10月)の混雑日にはマイカー規制が実施されており、直接乗り入れることができません。登山者は、麓にある「市ノ瀬ビジターセンター駐車場」に車を停め、専用のシャトルバスでアクセスします。


市ノ瀬までは金沢や小松空港からも直通でアクセス可能

市ノ瀬までは、JR金沢駅やJR松任駅から運行されている「白山登山バス」、または小松空港発の「白山登山エクスプレス」など、公共交通機関を使ってのアクセスも可能です。遠方からの登山者にとっても便利なルートが整備されています。


短い間隔で運行しているのが嬉しいシャトルバス

市ノ瀬から別当出合までは、シャトルバスで約30分。20分間隔で運行しているため、待ち時間も少なくスムーズです。バスが終点に近づく頃には、窓の外に白山の雄大な山並みが姿を現し、気持ちが一気に高まります。


白山登山の拠点となっている別当出合休憩舎

別当出合は、白山の主要登山ルート「砂防新道」や「観光新道」の起点となる場所で、山麓の豊かな森に囲まれた静かな登山口です。

バス停のすぐそばには、トイレや水場、登山届ポストを備えた「別当出合休憩舎」もあり、登山前の準備に便利です。この場所から、いよいよ白山登山が本格的に始まります。

白山登山1日目は、王道コースをゆったり歩く


甚之助避難小屋手前からダイナミックな崩落地を望む

登山初日は、別当出合からスタートし、砂防新道を通って白山室堂(むろどう)を目指します。比較的なだらかに標高を上げていく定番ルートは、途中にいくつもの休憩スポットがあり、無理なく登れるのが特徴。特に、中間地点の甚之助(じんのすけ)避難小屋は、トイレも完備されており、多くの登山者が休憩をとるポイントです。


御前峰山頂まで片道40分の距離にある白山室堂

さらに黒ボコ岩を越え、広々とした阿弥陀ヶ原(あみだがはら)を経て、室堂にたどり着けば、そこには標高2,450mとは思えないほど快適な山小屋が待っています。1日目は、森林から高山帯へと景色がダイナミックに変化していく道のりを、ゆったりと歩いていきましょう。

コースタイム:別当出合→(約50分)→中飯場→(約1時間30分)→甚之助避難小屋→(約30分)→南竜分岐→(約45分)→黒ボコ岩→(約30分)→室堂

最初が正念場 砂防新道〜甚之助避難小屋までの道のり


吊橋を渡れば、山の冒険が始まる入口に立ったような気分に

美しい渓谷を見渡す別当出合の吊り橋を渡ると、いよいよ白山登山がスタート。まずは樹林帯をジグザグに登っていきます。


山の緑と木漏れ日が美しい前半区間を歩く

整備された登山道は歩きやすいですが、傾斜がきつい箇所も多く、最初が正念場です。緑鮮やかに輝く樹林帯を眺め、木漏れ日のなか50分ほど歩くと中飯場に到着。


中飯場に設けられたベンチで、木陰に包まれながらひと休み

砂防新道のなかでは最初の休憩ポイントで、ひと息つくのにちょうどよい場所です。


水洗トイレが整備されており、登山者にとって心強い休憩ポイント

また中飯場には、トイレや水場も整備されており、体調や装備の確認にも適しています。


池の奥には、スケール感たっぷりの別山が姿を現す

そこからさらに登ると、約1時間30分で甚之助避難小屋に到着します。白山の南へ続く別山(べっさん、標高2,399m)までのダイナミックな山並みを望み、道中現れる高山植物や雪渓が高山ならではの山岳旅情を高めてくれます。


道中の快適な休憩スポット「甚之助避難小屋」

甚之助避難小屋ではトイレが利用でき、給水も可能。多くの登山者が腰を下ろしご飯を食べ、ここから先の本格的な高山帯に備えてエネルギーをチャージします。

甚之助避難小屋から黒ボコ岩区間は、荒々しくも美しい山の表情が楽しめる


夏の白山を彩る花々。白山にしか咲かない固有種も

甚之助避難小屋を過ぎると、登山道は徐々に高山帯へと入っていきます。標高が上がるにつれて植生も変化し、森林限界を越えるあたりからは高山植物が目立つようになります。白山は「花の百名山」としても知られ、ハクサンイチゲやハクサンフウロなど、白山の名を冠した植物も多く見られます。


標高を上げるたびに、山の景色が迫力を増していく

南竜ヶ馬場方面への分岐・南竜分岐を過ぎると、トラバース(山肌を横切る)区間が続きます。道幅がやや狭い箇所もあるため、足元に気を配りながら、ペースを保って進みましょう。道中、ダイナミックに佇む別山を一望する風景が見事です。


写真映えするスポットとして人気の黒ボコ岩

やがて視界の先に、大きな岩が点在する「黒ボコ岩」が現れます。ここはちょっとした展望ポイントでもあり、岩の上に立って記念撮影を楽しむことができます。山と空に抱かれるような景色を背景に、思い出の一枚を残してみてはいかがでしょうか。

阿弥陀ヶ原から室堂の間では、山と草原が織りなす別天地の風景を満喫


白山を開いた僧・泰澄(たいちょう)の足跡を、たどっているような気持ちに

黒ボコ岩を越えると、広々とした阿弥陀ヶ原が広がります。一気に視界が開け、足元にはハクサンコザクラやミヤマキンバイといった可憐な高山植物が咲き乱れています。道沿いの標識に「霊峰白山登拝道」の文字が見えるのもポイント。


白山最高峰・御前峰がとうとう近づいてくる区間

整備された木道を歩くこの区間は、まるで天空の草原を散策しているかのような爽やかな開放感に包まれます。夏でも涼しい風が心地よく吹き抜け、白山の懐深さを感じさせてくれるようです。


夏空と雲、御前峰が織りなす、清々しい夏のワンシーン

少し急な登りを越えると、白山室堂の建物が見え始め、同時に白山の最高峰・御前峰の山頂も近づいてきます。青空に映える緑の山肌と雪渓の鮮やかなコントラストが、思わず息をのむ美しさです。


室堂近くから高山植物と別山を一望

1日目の最後の登りは無理をせず、周囲の景色をゆっくりと楽しみながら進みましょう。山小屋にたどり着いたときの達成感は、ひとしおです。

室堂の山小屋に宿泊して、高山の世界を満喫


白山登山の拠点として、多くの人に親しまれている室堂

白山室堂ビジターセンターは、宿泊施設も兼ね備えた白山登山の中心基地です。充実した設備が整っているため、初めての登山でも安心して利用できます。


標高2,400mを超える高地にあるとは思えない施設の充実ぶり

宿泊施設のほかに、食堂、診療所、郵便局、売店なども備わっています。収容人数は約750名の大型山小屋で、標高約2,450mの地点に位置しています。背後にそびえる白山の最高峰・御前峰(標高2,702m)までは、徒歩約40分と好立地。


山の上で部屋に泊まれるだけで、もう十分に贅沢

白山室堂の宿泊は素泊まりでも全シーズン予約制となっており、営業期間は5月1日から10月15日までです。宿泊棟は白山荘、御前荘、こざくら荘、くろゆり荘の4棟の相部屋と、個室利用ができる「白山雷鳥荘」に分かれています。


室堂から眺める感動的な夕日

標高2,400mを超える山上での宿泊は貴重な体験。周囲の花畑を眺めたり、夕焼けや満天の星空、朝の雲海を楽しむこともできます。

山上とは思えないほど設備が整った環境と、絶景に包まれながら、翌日の登山に向けて早めに就寝します。

白山登山2日目は、御前峰へ登頂 御池めぐりと大汝峰へ


白く広がる雲海に抱かれる、神秘的な朝の室堂

室堂の澄んだ空気と静けさの中で始まる2日目。早朝から行動を開始すれば、山頂でのご来光を望むことも可能です。この日は、白山最高峰・御前峰への登頂をメインに、時間と体力に応じて火口湖・御池をめぐる散策や、大汝峰まで足をのばすルートがおすすめ。

コースタイム:室堂→(約40分)→御前峰山頂→(約25分)→翠ヶ池→(約35分)→大汝峰山頂→(約50分)→室堂→(約25分)→下山

白山ならではの趣を感じる、室堂から御前峰山頂区間


どっしり佇む山頂を目指して、清々しいラストスパート区間を歩く

室堂を出発し、山頂の御前峰(ごぜんがみね)を目指す道のりは比較的短く、登りやすいものの、しっかりとした達成感を味わえるルートです。


山肌に白く残る雪渓が、夏の空に映える

整備された登山道をゆるやかな傾斜で登ること約40分。山頂に立てば、眼下には白山室堂から別山までの壮大な景色が広がり、天気が良ければ遠く北アルプスまで見渡すこともできます。


絶景とともに信仰の歴史が息づく、御前峰の山頂

御前峰は白山の主峰であり、標高2,702m。山頂には白山比咩神社の奥宮が静かに鎮座し、信仰と自然が調和した神聖な空気が漂っています。登った者だけが出会える雄大な山の景色を楽しみながら、白山の奥深い魅力をじっくり味わいましょう。


高山ならではの気候の厳しさと、火口の迫力を物語る

さらに山頂の奥には、大汝峰や雪を湛えた池が見え、火口地形ならではの風景も楽しめます。標高3,000mに迫る白山ならではのスケールの大きさを、肌で感じられるひとときです。

御前峰登頂後は御池めぐり 山頂付近の名所を楽しむ


山頂から御池めぐりを楽しめるのも白山登山の魅力の一つ

御前峰からの下山途中、時間と体力に余裕があれば「御池めぐり」に足を延ばすのもおすすめです。白山の山頂付近には、火山の名残を感じさせる美しい火口湖が点在しています。


天空に浮かぶようなロケーションの「翠ヶ池」

中でも最大の「翠ヶ池」は、エメラルドブルーに輝く神秘的な景観が魅力。天候によって水の色が変わるため、訪れるたびに異なる表情を見せてくれます。


もう一つの山頂「大汝峰」を目指して歩を進める

さらに余裕があれば、白山の第二の高峰「大汝峰(おおなんじみね、標高2,684m)」まで足を延ばしてみましょう。御前峰からの縦走路は距離は短いものの、岩場や砂地が多く、足元には注意が必要です。


山頂からは日本海まで見渡す大パノラマが広がる

360度の視界が広がる山頂に立てば、白山の全貌を眼下に、日本海まで見渡せる圧巻の景色が迎えてくれます。絶景を堪能したら、室堂へ戻って下山。バスの時間に余裕をもった行動を心がけましょう。

静かな別天地・南竜ヶ馬場で楽しむ 白山のもうひとつの魅力


予約なしでOK!100までテントを張れる南竜ヶ馬場

白山の登山をより味わい深いものにするには、室堂だけでなく「南竜ヶ馬場(みなみりゅうがばんば)」での宿泊もおすすめ。室堂とは異なり、静かな谷間に位置するこの場所は、高山植物が豊富に咲く湿原地帯に囲まれ、夏でも雪渓が残るまさに山上の別天地です。


とても綺麗で過ごしやすいと話題の「南竜山荘」

南竜ヶ馬場には「南竜山荘(なんりゅうさんそう)」という山小屋のほか、予約不要のテント場も整備されており、自分のスタイルで山の一夜を過ごせます。テント場には清潔な水洗トイレがあり、飲用水も確保できるため、登山初心者でも安心して滞在できます。


穏やかに暮れていく空と、静かな色彩の変化を見つめる

夕暮れには山の向こうに日が沈み、夜には静けさと星空に包まれる贅沢な時間を味わえるのも魅力。室堂までは徒歩2〜2時間半と無理のない距離で、混雑を避けつつ、ゆったりとしたペースで白山の自然に親しむことができます。人気の「白山 テント泊」や「静かな白山登山ルート」としても注目されるエリアです。

アルプス展望コースから室堂へ 北アルプスを望む絶景ルート


三方崩岳(さんぽうくずれやま、標高2,059m)から北アルプスまで壮大なパノラマが展開!

南竜ヶ馬場から室堂へ向かうルートにはいくつかの選択肢がありますが、中でもおすすめなのが「アルプス展望コース」。その名の通り、晴れた日には北アルプスの槍・穂高や立山連峰、さらには御嶽山まで見渡せる雄大な景色が広がります。道中では振り返るたびに展望が変わり、歩いていて飽きることがありません。


雪渓を歩く、非日常の高山を味わう区間も

前半から岩場や湿原が点在し、変化のある道のりが魅力。中盤にはやや急な登りが30分ほど続きますが、登山道はしっかり整備されており、標識も明瞭。風が心地よく吹き抜ける稜線歩きでは、足元の雪渓や、遥かに望む白山の山並みが視界いっぱいに広がります。


ハイマツ帯から雄大に佇む御前峰を仰ぎ見る

最後は室堂周辺のハイマツ帯へと入り、高山植物に囲まれた景色を楽しみながらゴールへ。やや健脚向きのルートではありますが、雄大な眺望が続くこの道のりは、白山の美しさをじっくり味わいたい方にこそ歩いてほしい、おすすめのコースです。

白山登山の後は、癒しの白峰温泉と絶品そばに舌鼓


白山登山後に欠かせない名湯「白峰温泉」

下山後の楽しみとして、白山登山の疲れを癒す温泉とご当地グルメは欠かせません。特におすすめなのが、白峰温泉です。

白峰温泉は、登山口からアクセスしやすい県道33号線沿いに位置し、登山後の身体を芯から温め、リラックスできるのが魅力です。温泉街は小規模ながらも風情があり、落ち着いた雰囲気でゆったり過ごせます。


勝山の老舗・そば処 天心の名物「大仏そば」

また、白山登山エリアに近い福井県の越前大野市や勝山市では、地元で評判のそばを味わうこともできます。越前そばは、手打ちでしっかりとしたコシが特徴。

地元の清流で打たれたそばは、つるりとした喉ごしと香り高い味わいが楽しめます。特に勝山のそばは、山の幸とともに提供されることが多く、登山の余韻を満喫できる一品です。

唯一無二の魅力が詰まった2日間の白山登山


ここでしか感じられない特別な時間が詰まった最高の山旅へ

白山登山は、奥深い自然と文化にふれる貴重な山行です。砂防新道をたどって室堂に宿泊し、翌日に御前峰や大汝峰を目指すルートは、初心者から上級者まで楽しめる王道コース。

下山後は、白峰温泉の湯で疲れを癒やし、地元のそばなどグルメも楽しみのひとつ。ぜひ1泊2日の本格登山の第一歩として、白山を訪れてみてはいかがでしょうか。

白山 荒島岳・能郷白山・金剛堂山 2025
1993年生まれ、愛知県豊田市出身。同志社大学文学部を卒業後、商社やメーカーで営業職を経験。2019年より複業でトラベルライターとしての活動を始め、旅の魅力を伝える仕事がライフワークになる。2021年には本業も旅行業界へ本格転身し、国内OTAにて宿泊施設の集客支援に従事。現在は旅行系ベンチャー企業でメディアマネージャーを務める。これまでに執筆した記事は2,000本以上。地方の自然や暮らしをテーマにした発信を続けながら、「旅を通じて人生が豊かになるきっかけ」を届けたいと考えている。登山、自転車旅、温泉巡り、離島旅が趣味で、毎年の北海道旅行を家族の恒例行事にしている。 notehttps://note.com/yuhei_tonosho
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