安全登山の第一歩、頭を守る登山用ヘルメットとは?選び方とおすすめブランドを紹介

登山装備といえば登山靴やレインウェアが思い浮かびますが、「登山用ヘルメット」も命を守る重要なアイテムです。北アルプスなどの岩稜帯に限らず、関東近郊の山でも滑落や落石のリスクはゼロではありません。
この記事では、登山用ヘルメットの必要性や役割、選び方のポイント、そして初心者にもおすすめのブランドを紹介します。山と高原地図を片手に、少しずつステップアップを目指すあなたに、装備の「次の一手」として参考にしていただけたら幸いです。
なぜ登山にヘルメットが必要なのか?
登山では、美しい自然と引き換えに、思わぬ危険と隣り合わせになる場面もあります。登山用ヘルメットは、そんな「もしも」の時に命を守る、大切な装備のひとつです。とくに次のような状況では、着用しているかどうかが重大な結果につながります。
落石に備える

山では、登山道のすぐ上に脆い岩壁やガレ場が続くことがあります。風や雨、あるいは先行する登山者の一歩が引き金となり、石が突然落ちてくることも珍しくありません。拳ほどの石でも、落ちてくれば凶器になります。落石は自分が注意していても避けきれないことも多く、備えが重要です。とくに人が多い人気ルートや、乾いた岩場では、小さな振動で石が転がり出すリスクがあります。そんな時、頭を守るものがあるかどうかが、重大なケガを防げるかどうかを分けます。
滑落・転倒の衝撃をやわらげる

登山中の滑落事故は、体力や経験にかかわらず起き得ます。たとえば、急登の途中でふと足がもつれたとき、疲労で集中力が切れたとき、あるいは濡れた木の根に足を取られたとき。岩や石に頭を打てば、命にかかわる事故にもつながりかねません。
実際に、「ヘルメットをかぶっていたことで命を取り留めた」という報告は少なくありません。とくに鎖場や岩稜を通るようなコースでは、慎重を期していてもリスクがゼロにはならないのが現実です。
登山用ヘルメットの選び方
登山用ヘルメットを選ぶうえで、初心者が特に意識したいポイントを5つご紹介します。どのモデルにするか迷っている方も、この項目をチェックすれば、自分に合った一台が見えてくるはずです。
1.安全基準に適合しているかを確認する

画像:123RF
まず大切なのは、安全基準に適合した製品を選ぶことです。登山用ヘルメットには、主に「EN規格(欧州の安全基準)」と「UIAA規格(国際山岳連盟の基準)」の2つがあり、どちらも一定の衝撃吸収力や耐久性をクリアした製品に与えられます。特にUIAA規格はENよりも厳しい審査基準が含まれており、より高い安全性を重視したい方にはおすすめです。
アウトドア専門メーカーの製品であれば、ほとんどがこれらの基準を満たしていますが、通販サイトなどで極端に安いノーブランド品を購入する場合は、必ずこの適合表示があるかどうかを確認しましょう。
2.長時間かぶっても疲れにくい軽さかどうか

登山では何時間もヘルメットを着けたまま行動することも多いため、重さによる疲れを軽減できる軽量モデルが便利です。一般的に300g以下のものが軽量とされており、首や肩への負担が少ないため、長時間の登山や暑い季節の使用に向いています。一方で、300~400g台のモデルはしっかりとした作りで、初心者にも扱いやすい標準的な重さといえます。
軽さを重視しすぎて安全性が心配になるかもしれませんが、前述の安全基準を満たしている製品であれば、軽量でも十分な耐衝撃性があります。
3.使用スタイルに合った構造タイプかを見極める

登山用ヘルメットには、大きく分けて「ハードシェル」と「インモールド」という2つの構造タイプがあります。ハードシェルは衝撃に強く、耐久性が高いことが特徴です。価格も比較的手頃なものが多く、初めての一台として選ばれることも多いです。
一方、インモールドは非常に軽量で通気性に優れており、暑い時期の登山や軽さを重視したい方におすすめです。価格はやや高めになりますが、かぶり心地が快適なので、長時間の行動でもストレスを感じにくいというメリットがあります。
どちらも安全性に大きな差はないため、特長を理解し、自分のスタイルに合ったものを選びましょう。
4.調整しやすく、自分の頭にしっかりフィットするか

ヘルメットがズレてしまうと、安全性も快適性も損なわれてしまいます。そのため、調整がしやすく、しっかりとフィットするモデルを選ぶことが重要です。初心者には、後頭部のダイヤルを回すだけで頭囲を調整できるタイプが扱いやすくおすすめです。
また、ストラップの長さ調整が簡単か、着脱時に手間がかからないかも確認しておきたいポイントです。風の強い稜線や、岩場の登り降りで安定感が必要な場面でも、きちんとフィットしているヘルメットは頼もしい存在になります。
5.できれば試着してから購入する

登山用ヘルメットは、メーカーやモデルによって頭の形状に合う・合わないがはっきりと出る装備です。そのため、可能であれば登山用品店などで実際に試着してから購入することをおすすめします。
試着の際は、額やこめかみに圧迫感がないか、左右に振ってもズレないか、メガネやサングラスと干渉しないかなどをチェックしてみましょう。また、ザックを背負ったときにヘルメットが当たって違和感がないかも、確認しておくと安心です。
オンライン購入も選択肢ですが、初めての購入は、店頭で実際に試着し、自分にフィットするモデルを選ぶことで登山中の不快感を防げます。
初心者にもおすすめの登山用ヘルメットブランド5選

ここからは、登山初心者にも扱いやすく、安全性・快適性ともに信頼できるヘルメットを手がける代表的なブランドをご紹介します。いずれも国際的な安全基準に準拠し、ショップでの取り扱いも多いため試着しやすいのが特徴です。
1.Black Diamond(ブラックダイヤモンド) 軽さ・調整のしやすさで定評あり
アメリカ発のアウトドアメーカーで、特にクライミング用品に強みを持っています。ブラックダイヤモンドの登山用ヘルメットは、軽量かつ頭囲の調整がしやすいダイヤル式のモデルが多く、フィット感にも定評があります。
日本人の頭にも合いやすく、見た目もスマートでユニセックスデザインが豊富。安全性だけでなく、装着時の快適さや使いやすさを重視したい方にぴったりです。
2.Petzl(ペツル) 軽量で通気性抜群、夏山に最適
フランス生まれのペツルは、世界で初めて登山用ヘッドランプを開発したことでも知られる、先進的な登山ギアメーカー。その技術力はヘルメットにも反映されており、通気性と軽さを両立したモデルが多く、夏の高温時にも快適に使えるのが特徴です。
スタイリッシュでミニマルなデザインも人気で、「快適さを最優先したい」「重い装備が苦手」という方に向いています。
3.MAMMUT(マムート) 堅牢さと信頼のバランスが魅力
スイス発祥の登山ブランドで、クライミングギアの開発にも長い歴史を持つマムートは、とにかく耐久性に優れた設計が特徴。樹脂素材を使用したハードシェル構造のモデルが多く、多少ラフに扱っても壊れにくいため、初心者にも安心して使えます。
また、シンプルな設計で着脱しやすく、価格も比較的手頃なものが多いため、「最初の一台」としておすすめされることも多いブランドです。
4.EDELRID(エーデルリッド) ロープメーカーの知見が活きる、信頼のつくり
ドイツ発のエーデルリッドは、クライミングロープ開発のパイオニアであり、その安全設計のノウハウをヘルメットにも応用しています。構造はシンプルながら、被った瞬間にフィットする心地よさがあり、ユーザーからの評価も高め。
軽量モデルからハードタイプまでバリエーションがあり、カラー展開も豊富でユニセックス対応もしやすいため、選ぶ楽しさも魅力のひとつです。
5.Grivel(グリベル) 雪山装備で名高い実力派、通気性も◎
イタリアの老舗登山ブランドで、アイゼンやピッケルといった雪山装備に定評があります。グリベルのヘルメットは、通気孔が多く蒸れにくい構造と、ユニークで目を引くデザインが特徴。
安全性を追求する姿勢と、欧州ブランドらしいカラーリングは、個性を出したい方にも人気。サイズ調整機構もわかりやすく、初めてでも迷いにくい設計になっています。
登山用ヘルメットに関するよくある質問

登山初心者にとって、ヘルメットは「上級者向けの装備」と感じるかもしれません。ですが、実際は岩場や滑落のリスクがあるルートでは、初心者こそ備えておきたい安全装備のひとつです。
ここでは、はじめて登山用ヘルメットを検討する方が抱きやすい疑問にお答えします。
Q. ヘルメットはどんな登山でも必要ですか?
A. すべての登山で必須というわけではありませんが、岩場や落石リスクのある山では着用を強くおすすめします。とくに「滑落注意」「岩場マーク」が山と高原地図に記載されているルートでは、安全のために備えておくと安心です。
Q. ヘルメットは登山中ずっとかぶるものですか?
A. 危険箇所以外では外しても問題ありません。樹林帯や緩やかな登山道では、ザックに装着しておく方も多いです。そのため、着脱しやすい構造かどうかはヘルメット選びの大事なポイントになります。
Q. ヘルメットの寿命はどれくらいですか?
A. 一般的には製造から5年程度が交換の目安です。紫外線や経年劣化で素材が弱くなるため、使っていなくても交換が推奨されます。一度でも落下や強い衝撃を受けた場合は、見た目に異常がなくても新調を検討しましょう。
Q. スノーボード用などのヘルメットと兼用できますか?
A. 登山専用のヘルメットを使用してください。スノースポーツ用は「転倒時の側面衝撃」に対応していますが、登山では「上からの落石」など異なる衝撃方向への備えが必要です。見た目が似ていても、想定されているリスクが違います。
Q. ヘルメットをかぶっていると暑くありませんか?
A. 夏場はやや暑さを感じることもありますが、通気性に優れたインモールド構造のモデルを選べば、蒸れを軽減できます。また、水分補給やこまめな休憩も熱中症対策として大切です。
登山用ヘルメットは“もしも”に備える心強い装備

登山用ヘルメットは、本格登山だけでなく、岩場や急登を含むルートでの安全を確保するうえで、非常に重要な装備です。自分に合った一台を見つけることで、安全性だけでなく快適性も高まります。
地図上に「岩場」や「滑落注意」の表記があるルートでは、たとえ低山であってもヘルメットの着用を検討しましょう。
長野県では槍ヶ岳や剱岳などを含むルートで「ヘルメット着用推奨山域」が公開されていますが、こうした制度の有無にかかわらず、自分の歩くルートをよく知り、必要な装備を判断することが大切です。
山と高原地図で危険箇所をあらかじめ確認し、安全に登山を楽しむために、ぜひヘルメットの着用も視野に入れてみてください。「念のため」ではなく「備えておいてよかった」と感じられる装備が、山では頼れる存在になります。

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