甲斐駒ヶ岳登山ガイド 北沢峠から南アルプスの貴公子を満喫する絶景ルート

白く輝く鎧をまとったような端正な山容が印象的な「甲斐駒ヶ岳」。南アルプスを象徴する名峰として、多くの登山者にとって憧れの存在です。南アルプスの中でも比較的アクセスがよく、静かな樹林帯のトレイルから、スリルある稜線歩きまで、変化に富んだ登山ルートが魅力です。

テント泊を楽しみながら、隣の「仙丈ヶ岳」と組み合わせた山旅もおすすめ。懐深い南アルプスの自然を、じっくりと味わう登山へ出かけてみませんか?

2025年7月15日 更新

南アルプスの名峰・甲斐駒ヶ岳の初心者向け登山ルート


9月、紅葉が山肌を彩る季節。秋のはじまりを告げる甲斐駒ヶ岳

「甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ、標高2,967m)」は、南アルプスの北端にそびえる日本百名山のひとつ。白く輝く花崗岩の岩肌が印象的で、その端正な姿から「南アルプスの貴公子」とも呼ばれています。

主な登山ルートは2つ。山梨県側の黒戸尾根(くろとおね)ルートは、標高差約2,200mを誇る南アルプス屈指の健脚向けルート。一方、長野・山梨県境の北沢峠から登るルートは、比較的歩きやすく、初心者にも人気です。


甲斐駒ヶ岳と仙丈ヶ岳への登山拠点となる北沢峠

標高約2,000mに位置する北沢峠は、甲斐駒ヶ岳と「仙丈ヶ岳(せんじょうがたけ、標高3,033m)」、2つの百名山の登山口でもあります。

1泊2日で両山を巡るプランもおすすめで、1日目に甲斐駒ヶ岳、2日目に仙丈ヶ岳を登るというぜいたくな山旅も可能。アクセスの良さと雄大な稜線からの展望が、多くの登山者を惹きつけています。

甲斐駒ヶ岳登山口・北沢峠までのスムーズなアクセス方法


首都圏からも多くの登山者が集まる、憧れの南アルプス

南アルプスの山々は「アクセスが大変」というイメージがあるかもしれませんが、甲斐駒ヶ岳は意外にもスムーズにアプローチできます。

長野県伊那(いな)市の仙流荘(せんりゅうそう)から「南アルプス林道バス」に乗れば、約1時間弱で登山口の北沢峠へ。舗装率90%以上の走りやすい山道を通って、標高2,000mの登山口まで快適に移動できます。


南アルプスを縫うように走る林道は、絶景の連続

仙流荘へは、東京方面からの直通バス「南アルプスジオライナー」も運行しており、関東からのアクセスも良好。道中では、窓の外に南アルプスの雄大な山並みが次々と現れ、登山が始まる前から気分が高まるはず。

甲斐駒ヶ岳登山 苔むす森と巨岩の道を抜けて山頂へ


歩みを進めると、森の奥にひっそりとたたずむ美しい池と出会う

北沢峠から甲斐駒ヶ岳の山頂までは、片道およそ4.5km、所要時間は約4時間です。本格的な登山装備を整え、余裕を持った行動計画でのぞみましょう。

コースタイム:北沢峠→(約15分)→長衛小屋→(約30分)→仙水小屋→(約35分)→仙水峠→(約1時間25分)→駒津峰→(約30分)→六方石→(約50分)→甲斐駒ヶ岳山頂→(約45分)→六方石→(約30分)→駒津峰→(約40分)→双児山→(約1時間30分)→北沢峠

登山口を出発してしばらくは、しっとりとした森の中を歩きます。苔むした岩や澄んだ沢の流れが現れ、南アルプスらしい原始の自然に包まれる時間。水音や木々の揺れる音に耳を澄ませながら、静かに森の中を進んでいきます。


苔むした岩とせせらぎが癒しをもたらす森のトレイル

やがて「仙水小屋」に到着。ここでひと息ついたら、次は仙水峠を目指して登っていきましょう。道中には大きな岩がごろごろと転がり、まるで『もののけ姫』の世界に迷い込んだような神秘的な雰囲気です。


体力勝負の急斜面が続き、ここが前半の最大の踏ん張りどころ

仙水峠から駒津峰(こまつみね、標高2,752m)までは、石の多いジグザグ道。足元が濡れていると滑りやすいので注意しながら、少しずつ標高を上げていきます。駒津峰にたどり着くと、目前に現れるのは甲斐駒ヶ岳の堂々たる岩稜。いよいよ稜線歩きが始まるという高揚感が、一気に高まるポイントです。

甲斐駒ヶ岳登山の核心部ルート 歩を進めるごとに増す迫力


六方石のシルエットと、山肌を覆う紅葉のコントラストが見事

駒津峰を越えると、いよいよ甲斐駒ヶ岳登山の後半へ。まずは細く切れた岩稜を進みます。ところどころ高度感のある場所もありますが、慎重に足を運べば問題なく通過できます。

途中に現れる大岩・六方石(ろっぽういし)は、稜線上のランドマーク。この巨岩を越えれば、山頂はすぐそこです。


白く輝く花崗岩の斜面を慎重に横切る巻道ルート

山頂直下ではルートが二手に分かれます。一つはゴツゴツとした岩場を直登するルートで、やや体力と注意が求められるコース。もう一つは、巻道と呼ばれるなだらかな道で、初めての人や体力に不安のある方はこちらがおすすめです。この区間では徐々に森林が姿を消し、荒々しい岩肌が露わになっていきます。


雲が湧き上がる空の下、360度の大パノラマが心を奪う

甲斐駒ヶ岳の山頂付近は、ダイナミックな花崗岩が広がる別世界。登山道は岩の裂け目を慎重に横切りながら進んでいきます。樹林帯を抜けたその先には、木々の姿はなく、まるで天空に浮かぶ岩の要塞を歩いているような、非日常のスケールが待ち受けています。


摩利支天の先に広がる、風格ある鳳凰三山の山容に息をのむ

やがて前方に姿を現すのが、甲斐駒ヶ岳に並ぶもうひとつの山頂である摩利支天(まりしてん、標高2,829m)。そしてその奥には、日本百名山のひとつ鳳凰三山(ほうおうさんざん)のシルエットが浮かびます。

六方石の窪地からは、眼下に駒ヶ根の街並みと中央アルプスの大パノラマを一望。最後の一歩を踏み出した瞬間、眼前に広がる絶景に、これまでの苦労が報われることでしょう。

南アルプスを望む360度の絶景、甲斐駒ヶ岳へ登頂!


遥かなる空の稜線。南アルプスの主峰たちが並ぶ壮観な景色

標高2,967mの甲斐駒ヶ岳山頂に立つと、遮るもののない360度の大パノラマが広がります。東には八ヶ岳や瑞牆山、南には仙丈ヶ岳、北岳(標高3,193m)、間ノ岳(あいのだけ、標高3,190m)といった南アルプスの主稜線が連なり、空気が澄んだ日には遥か彼方に富士山(標高3,776m)の姿が浮かぶこともあります。


辿ってきた稜線と、それを包み込む紅葉のグラデーションに見惚れる

足元には、自らの足でたどってきた雄大な稜線。遥か下に広がるその道のりを振り返ると、胸に込み上げる達成感はひとしおです。岩稜越しに広がる空と大地の境界が溶け合うような絶景に、思わず時間を忘れて見入ってしまうことでしょう。


異形の山・鋸岳(のこぎりだけ、標高2,685m)と、山々に囲まれる伊那の街を一望

ただし、山頂は風が強く冷え込むことが多いため、防寒対策は万全に。頂には山名標と小さな祠が佇み、ここまでの無事に感謝を込めて手を合わせる登山者の姿も。深呼吸とともに、山頂での特別なひとときを心ゆくまで味わってください。

名残惜しい絶景、双児山を経て北沢峠へ(甲斐駒ヶ岳登山の下山ルート)


駒津峰で立ち止まり、名残惜しく甲斐駒ヶ岳の雄姿を見納める

山頂からの壮大な景色を胸に焼きつけたら、名残を惜しみながら下山の道へ。まずは、往路でも立ち寄った駒津峰へ向かいます。甲斐駒ヶ岳を望む展望スポットで振り返れば、白く輝く山頂が背後にそびえ、その堂々たる姿にもう一度見入ってしまいます。


駒津峰と甲斐駒ヶ岳が並び立つ絶景が、双児山で迎えてくれる

駒津峰からは一度鞍部へと下り、ゆるやかな登り返しを終えると、双児山(ふたごやま、標高2,649m)へ。なだらかなピークにたどり着けば、ひと安心。登山道はよく整備されており、勾配も比較的緩やかで、疲れが出始める下山時にも歩きやすい道のりが続きます。


最後は南アルプスらしい静かな樹林帯歩きで北沢峠へ

双児山を越えれば、北沢峠まではもうひと下り。最後まで気を抜かず、余裕をもったペースで歩きましょう。木々に包まれた登山道を歩いていると、ふとこれまでの道のりが思い出され、森の静けさが心を落ち着かせてくれます。下山の一歩一歩が、旅の余韻を深めてくれるはずです。

甲斐駒ヶ岳登山の拠点・長衛小屋のテント場に泊まる


登山デビューにもぴったり。安心して泊まれる好立地のテント場

北沢峠のすぐそばにある「長衛(ちょうえい)小屋」は、広々としたテント場を併設しており、1泊2日の登山の拠点として非常に便利です。

テント場は平坦で、水場や炊事場、清潔なトイレもしっかり整備されているので、テント泊が初めての方でも安心して利用できます。森に囲まれた静かな環境は風の影響も少なく、落ち着いた時間を過ごせるのも魅力のひとつ。


静けさの中、空が燃えるように染まっていく光景が胸に刻まれている

ここは甲斐駒ヶ岳と仙丈ヶ岳、両方の登山口に近いため、多くの登山者がこの場所をベースにプランを立てています。夜には空いっぱいの星が広がり、朝は鳥のさえずりとともに一日が始まる。そんな自然のリズムに寄り添う時間が、テント泊ならではのぜいたくです。


夜明け前の静寂の中で食べたご飯も、旅の大切な記憶のひとつ

夕暮れ時、バーナーで湯を沸かしながら仲間と語り合うひととき。自分たちの手で作る食事と、山の空気を共有する時間は、きっと忘れられない思い出になるでしょう。山に泊まるという特別な体験が、登山の魅力をさらに深めてくれます。

甲斐駒ヶ岳と対になる、仙丈ヶ岳への登山もおすすめ


南アルプスの女王と謳われる優美な山容の仙丈ヶ岳

テント泊や小屋泊で北沢峠に1泊したなら、2日目は「仙丈ヶ岳」への登頂もおすすめです。標高3,033mを誇るこの山は、「南アルプスの女王」と呼ばれる優美な山容が特徴で、初日に登った甲斐駒ヶ岳の力強さとはまた違った魅力を備えています。


木漏れ日の下、神秘に満ちた樹林を抜ける癒しのひととき

登山口は北沢峠からすぐ。山頂までの往復は7〜8時間ほどで、ルートは「馬ノ背ヒュッテ経由」と「小仙丈ヶ岳(こせんじょうがたけ)経由」の2通り。どちらのルートも登山道はよく整備されていて歩きやすく、体力があれば登山初心者でも無理なく挑戦できるコースです。


懐深く小仙丈沢カールを包み込む、仙丈ヶ岳の雄大な姿

特に小仙丈ヶ岳を経由するルートでは、途中から雄大な稜線歩きが楽しめ、眼下には広がる雲海、遠くには北岳や鳳凰三山の連なりが視界いっぱいに広がります。そして仙丈ヶ岳の山頂に立てば、正面には堂々たる甲斐駒ヶ岳の姿が広がり、前日に歩いた道のりを思い返すひとときに。そんな振り返りの時間こそ、山旅ならではの味わい深さが感じられます。

北沢峠から南アルプスの名峰へ 甲斐駒ヶ岳登山は、きっと忘れられない山旅になる


ギザギザと連なる甲斐駒ヶ岳と鋸岳の稜線に圧倒される

「甲斐駒ヶ岳」は、南アルプスの貴公子と呼ばれる白く端正な山容と、抜群のアクセスの良さで、多くの登山者に愛される名山です。

今回ご紹介したように、北沢峠からの周回ルートでは、ダイナミックな稜線歩きと南アルプスらしい静かな樹林帯の両方を楽しめます。頂上に立ったときには、格別の達成感と圧巻の景色が待っているでしょう。

北沢峠でのテント泊や、翌日に仙丈ヶ岳を縦走するプランも合わせて、心に残る山旅をぜひ味わってみてください。

北岳・甲斐駒 2025
1993年生まれ、愛知県豊田市出身。同志社大学文学部を卒業後、商社やメーカーで営業職を経験。2019年より複業でトラベルライターとしての活動を始め、旅の魅力を伝える仕事がライフワークになる。2021年には本業も旅行業界へ本格転身し、国内OTAにて宿泊施設の集客支援に従事。現在は旅行系ベンチャー企業でメディアマネージャーを務める。これまでに執筆した記事は2,000本以上。地方の自然や暮らしをテーマにした発信を続けながら、「旅を通じて人生が豊かになるきっかけ」を届けたいと考えている。登山、自転車旅、温泉巡り、離島旅が趣味で、毎年の北海道旅行を家族の恒例行事にしている。 notehttps://note.com/yuhei_tonosho
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